人のけしきぞありしにもにぬ(建礼門院右京大夫集)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

 犬はなほ姿も見しにかよひけり人のけしきぞありしにもにぬ

健礼門院右京大夫集

現代語訳

犬の姿はあいかわらずかつて見たままだが (会いに)かよった人の様子(姿)は以前に似ていない

ポイント

けしき 名詞

「けしき」は「気色」と書きます。

意味は「様子」と書いておけばだいたい大丈夫です。

人に対して使うのであれば、「表情」「態度」「姿」でもいいですね。

「けしき」と「けはひ」

実際に見えているものの様子を表すのが「けしき」であり、目には見えない雰囲気としての様子を表すのが「けはひ」です。どちらも「様子」と訳してよいのですが、ニュアンスは異なるので注意しましょう。選択肢問題では「けはひ」は「雰囲気」と訳されることもあります。

ありし 連体詞

「ありし」は、ラ変動詞「あり」に、過去の助動詞「き」の連体形「し」がつき、そのまま一語の連体詞として成立したものです。

「存在し」「た」のですから、「以前の」「かつての」「昔の」などと訳します。

ず 助動詞 

文末の「ぬ」は、打消「ず」です。

文中に「ぞ」があるので、連体形で結ばれています。

+α 連体止め

今回の例文では「ぞ」があるので、「結び」が連体形になるのはわかりやすいのですが、和歌などでは、「係り結び」が起きていないのに、結びが「連体形」になることがあります。「連体形止め(連体止め)」という技法です。

「後ろに何かの体言があるのかな」と想像させるため、余情・余韻の効果があり、詠嘆・驚きを表すようにもなりました。和歌に使用されやすい技法ですが、中世からは会話文中にもしばしば登場します。近世に入ると、地の文にも見られるようになります。 

かびのつきたるにんじんのけしきぞありしにもにぬ