平安時代末期～鎌倉時代初期の武将です。
お父さんは工藤祐継です。妻は伊東祐親の娘です。
平安時代の末には、祐親のすすめもあり、平重盛の家臣となりました。
本当ならばお父さんから伊東の地を相続するはずでしたが、義理の父である伊東祐親が、巧みに伊東の地を横領しており、それに気づいた祐経はその返還を求めます。
しかし、再三にわたる要求に祐親のほうが怒ってしまい、京にいる祐経への仕送りは停止され、妻とも離縁させられてしまいます。裁判をしましたが、祐経にとって有利な判定にはなりませんでした。
どうしようもなくなって祐経は、祐親を暗殺しようとしますが、矢は祐親に当たらず、祐親の息子である河津祐泰に当たり、その祐泰が死んでしまいました。
（この暗殺自体、頼朝の命であったという説があります）
その後、「富士川の戦い」では、頼朝に敵対していた伊東祐親は捕虜となり、身を預かった三浦義澄の懇願で助命されますが、祐親は「以前の行いを恥じる」と言い残して自害します。
すでに頼朝の重臣になっていた祐経は、平家討伐の戦いに従軍します。源範頼の軍勢に入り、九州をおさえることに貢献しました。
その後も頼朝の近臣として仕えますが、「富士の巻き狩り」において、河津祐泰の遺児であった曾我兄弟により、討たれてしまいました。
伊東祐親と工藤祐経との間には、伊東の地をめぐる争いがあったんだけど、「伊東祐親と敵対する」という観点で工藤祐経と利害が一致したのが源頼朝だね。
頼朝は伊豆に流された後、伊東祐親の娘である八重姫とのあいだに男の子（千鶴丸）を授かる。それを知った伊東祐親はとにかく激怒して、千鶴丸を殺し、八重姫は別の家に嫁がせ、頼朝も殺そうとする。
（千鶴は殺されていないという説もある）
そこで頼朝に「やばいよ」って教えてあげたのが伊東祐親の息子の祐清だったな。
祐清の妻は「比企尼の三女」だからね。
頼朝の乳母であった比企尼の影響もあり、もともと祐清は頼朝と親交がある。
祐清の烏帽子親が北条時政だったこともあり、「時政を頼れ」と頼朝に勧めるんだね。
その後、頼朝は時政の娘の政子と結婚し、仲間も増やして、平家打倒の巨大勢力になっていく。
伊東祐親と工藤祐経のいさかいは根が深いのか？
もともと、工藤祐隆という人がいて、この人が伊豆国の久須美荘を開発するんだ。
久須美荘は、伊東・宇佐美・大見・河津にまたがる巨大な荘園。
そのなかでも「伊東」が本拠地だったので、祐隆は伊東氏の祖といわれている。
祐隆の嫡子であった祐家は早く亡くなってしまうので、その子である祐親に、河津荘を相続させる。
一方、祐隆には後妻がいて、その連れ子である祐継に伊東を相続させる。
これに不満を持ったのが祐親。
血がつながっているわしが、最も重要な「伊東」を継ぐべきだろうが。
祐継は後妻の連れ子ですぞ。
ただ、どうやら、祐継は、祐隆の本当の子どもであったらしい。
祐隆としては、自身の子どもを産んだ人だからこそ、後妻に呼んだんじゃないかな。
それが真実なら、「祐継」が「子」で、「祐親」が「孫」になるから、本拠地の伊東を祐継に相続させるのは、特に問題ないな。
そして、それが真実なら、オレ自身も「家隆の本当の孫」ということだ。
家の格式は別として、血縁としては祐親と対等なのだ。
さて、工藤祐経が幼いときに、父祐継は亡くなってしまうんだけど、このときに伊東祐親が工藤祐経の後見人になるんだ。
のちに元服し、工藤祐経は伊東祐親の娘と結婚する。
だから、工藤祐経にとって、伊東祐親は、もともとのおじさんでもあるし、義理の父親でもある。
伊東祐親の娘というと・・・八重姫か？
八重姫とは別の娘だ。
伊東祐親には４人の娘がいた。
一人は北条時政の妻。
この妻が産んだのが義時。
わしはその後「牧宗親の娘」と再婚。
伊東祐親はおじいちゃん。
伊東祐親の別の娘は、三浦義澄の妻。
この妻との子どもが三浦義村。
伊東祐親はおじいちゃん。
ああ～。
そういうのもあって、北条義時と三浦義村は最後まで仲いいのか。
さらに別の娘（八重姫）は、源頼朝との間に千鶴丸を授かる。
さらに別の娘が、工藤祐経の妻。
祐親さんは、オレの貢献人になっただけでなく、義理の父になったのだ。
この時点ではまだ感謝されてたな。
さて、伊東祐親は、工藤祐経の後見人として、平重盛（清盛の嫡男）に会いに行き、祐経を引き合わせるんだね。その後、工藤祐経は平重盛の家人として京ではたらくようになる。
そして、伊東祐親は、自分の所領ではないはずの「伊東」を平重盛に寄進して、自分が管理する荘園のようにしてしまう。
工藤祐経に相談はしなかったのか？
どうやら祐経は「お父さんが相続していた」ということを知らなかったらしい。
伊東祐親は、自分の娘が祐経に嫁いでいることもあって、「祐経よりも上の立場」になっているから、まるで自分の土地のように勝手に進めてしまうんだね。
寄進先の平重盛は、この荘園をさらに藤原多子（近衛天皇の皇后、のちに二条天皇の皇后）に寄進したことにより、伊東の地は、「権力者に見守ってもらえている荘園」となる。
いろいろわかる前は、むしろ恩義を感じていた。
ところが、ある日、伊豆国宇佐美荘にいる母から文が届く。
「伊東」や「宇佐美」といった領地を、祐継（祐経の父）が相続していた証文だった。
祐経はとても驚いたらしい。それらの土地を伊東祐親の領地と思っていたからだろうね。
祐経のお母さんも、息子が継ぐべき土地で、祐親が我が物顔でのさばってるから、さすがに何とかしたいと思って手紙を出したんじゃないないかな。
結果的には、平重盛さんや藤原多子さんといった超ド級のスーパー権力者の庇護下に入ったから、いいことをしたくらいに思っている。
ちょ、ま、……すけちかあぁァ！
在京中の工藤祐経は、伊東祐親に対して伊東荘を返すように何度も求めるんだけど、祐親は返してくれない。
それどころか、祐親はキレて、京にいる祐経への仕送りを止めてしまい、祐経の妻となっていた娘を勝手に離縁させてしまう。娘は土肥遠平と再婚することになる。
うっせえ うっせえ うっせえわ～
伊東はオレの土地 実質上～
祐経たら、完全な逆ギレだな。
仕方なく、わしは訴訟を起こした。
証文もあるし、理屈から言えば、工藤祐経が勝つはずの裁判なんだけど、伊東祐親が伊東荘を寄進した先は平重盛であり、しかも、大宮（藤原多子）の権利まで発生してしまっている。
平氏としては、一度獲得した利権を手放したくないから、「伊東を祐親から取り上げて祐経の土地とする」という判断はせずに、「伊東祐親と工藤祐経の二人のもの」という決定を下す。これに後白河法皇のお認めまでつけてしまった。
こりゃあ、くつがえせねえな。
まあ、こういうこともあって、平家がいやになりましたよね。
なすすべがなくなった工藤祐経は、郎党に命じて伊東祐親を弓で狙撃！
怒涛の展開！！
わしは京にいるふりをして宇佐美荘に潜伏。
しかし、祐親には当たらず、隣にいた祐泰（祐親の息子）に当たって、祐泰は死んでしまう。
間一髪。
夫を喪った祐泰の妻は、その後、幼い二人の男の子を連れて、曾我荘の領主である曾我祐信さんに嫁ぐ。
ここでも祐か！！
しかし、幼い二人の男の子は、お父さん（祐泰）を殺されたうらみを忘れることはなかった。
忘れるものか。
でしょうね。
さて、伊東祐親はというと、平重盛とつながりがあるくらいのゴリゴリの平氏側だから、頼朝に敵対する。
一度は勝利するが、その後頼朝軍が超絶強くなってて、敗退し、捕えられてしまう。
祐親を預かったのが、三浦義澄。
祐親の娘の夫で、のちの十三人の合議制の一人だな！
そうだよ。
義澄はわしの命を助けようとして、あれこれ頼朝に話してくれた。
ちょうどそのとき政子が頼朝の子を妊娠していたので、「ね、ほら、おめでたい時期ですし、お命ばかりはとらなくても、ね」って話してくれていた。
すると頼朝は、わしの命までは奪わなくてよいと言ってくれたのだが、わしの胸には「あのこと」が去来していた・・・・・・。
「あのこと」とはなんだ？
頼朝と八重姫を別れさせて、子どもも殺してしまったことだ。
にもかかわらず、頼朝はこんなに強くなって、今や平家を倒すエース級の存在。
結果、祐親は「以前の行いを恥じる」と言って自害したと伝えられている。
祐親が死んだら、「伊東」の領地はどうなったのだ？
伊東祐親は「平氏軍」だったわけだから、伊東は「頼朝に逆らった者の土地」になるよね。こういうところは頼朝が召し上げて、ふさわしい御家人に分配するんだ。
工藤祐経は、頼朝の御家人として武功を上げ、伊東を自分のものとして認めてもらうんだね。
やっと念願がかなったのか。
しかし・・・
祐経のはなった刺客にお父さんを殺された兄弟を覚えているか。
はあい。
祐泰が殺された後、お母さんに連れられて曾我に行っていたあの兄弟だな！
二人は父ちゃんを殺された恨みを忘れることはなかった。
しかも、彼らからみれば、むしろ祐経に「伊東」の地を奪われたような感覚になっている。
成長した兄弟は、頼朝主催の「富士の巻狩り」に参加して、宿場で酒を飲んでいた祐経を襲撃し、父のかたき討ちを果たす。
激アツ！！
祐経を討った曾我兄弟なんだけど、まず兄の「祐成」はその場で討たれてしまう。
弟の「時致」は捕えられて、頼朝も見ている前で尋問を受けるんだね。
「父（祐泰）のかたき討ち」であることが考慮されて、助命しようという方向になるんだけど、父（祐経）を討たれた犬房丸は許すことができず、涙を流して、鉄の扇で時致のほおをはたいてしまう。
結局、犬房丸の「許さない」という訴えを聞いて、時致は処刑されるんだ。
そして、捕えられている時致をたたいたことが「武士にあるまじき行為」ということで、犬房丸は伊奈（いまの長野県）に配流になるんだね。
犬房丸・・・すまん。
壮大なエンディングだった。
それにしても、「伊東」の地にこれほどの思いがつまっていたとはな。
そう。
犬房丸は、その後も父ちゃんの「伊東」に対する気持ちを忘れない。
なん・・・だと・・・
伊奈に配流になった犬房丸は、その後「伊東祐時」と名乗って、頼朝に仕える御家人となる。
なんと！
祐時の子孫は、その後日向国（いまの宮崎県）を与えられて、「伊東」として藩主となっていくんだ。その「日向伊東氏」の初代当主は「祐時」ということになっている。
祐経の「伊東」への思いが、息子の祐時を経由して、はるばる宮崎県で結実したのか。
その360年後・・・・・・
まだなんかあんの？
安土桃山時代に、四人の少年がキリスト教の使節団としてローマに派遣されるんだ。天正遣欧使節団という。
四人の少年の名は、
伊東マンショ
千々石ミゲル
中浦ジュリアン
原マルチノ
カタカナのところはキリスト教の洗礼名だね。
おや？
四人のなかのキャプテンは伊東マンショ。
本名は伊東祐益。
伊東……、祐……、まさか……
犬房丸の子孫。
え？
え？
これも脚色？
これは事実。
伊東の地を奪われ、父ちゃんを殺された少年が、「伊東」の名を継ぎ、その子孫がローマにわたり、ローマの市民権をいただく。
なお、彼らの持ち帰ったグーテンベルク印刷機によって、日本で初めて日本語の印刷物が生まれる。
日本の印刷書籍の祖は、犬房丸の子孫。
今日いち感激した。
「伊東」が世界進出したのだな。
