清少納言(せいしょうなごん)は、平安時代に宮中ではたらいた女流作家で、『枕草子(まくらのそうし)』を書いたことで有名です。彼女は中宮・定子(ていし)に仕え、そのまわりで見たこと、感じたこと、季節の美しさ、人間のおもしろさなどを、短い文章で次々と書き残しました。
『枕草子』は、いまの「エッセイ」や「随筆」に近く、作者の気持ちや好みがそのまま言葉になっています。たとえば、「春はあけぼの(明け方がよい)」という書き出しはとても有名で、季節のなかでもどの時間帯が美しいかを自分の感覚で語っています。
清少納言は、明るく、はっきりものを言うタイプだったと言われます。宮中での人間関係や事件に対して、ユーモアをまじえながら書くので、1000年以上たった今でも読み手は「なるほど」「そう思うよね」と共感できます。
一方で、彼女の文章は、ときにきびしい評価や皮肉もあります。自分が美しいと思うものを大事にし、そうでないものには辛口になるところが、逆に個性としておもしろがられてきました。
『枕草子』は、日本の文学において「随筆(ずいひつ)」というジャンルのスタート地点と考えられています。個人の感じたこと、見た景色、心の中の声を、自由に書いてもよいという流れを作りました。俳句や日記、エッセイ文化にも影響を与えています。
清少納言のことを知ると、1000年前の宮中の生活が意外とリアルに伝わってきます。人が何を好きになり、何にびっくりし、どこで笑っていたか――その感覚は、いまの私たちとあまり変わりません。
