らうらうじ【労労じ】 形容詞(シク活用)

洗練された巧み/美

意味

(1)洗練されている・巧みだ・才たけている

(2)気品があって美しい・上品でかわいらしい

ポイント

漢語「労」を重ねて形容詞化したことばだと言われています。

「労」は「年功・熟練」などを意味し、多くの経験を積んだがゆえの「物慣れた巧みさ」を示しています。

そういった「熟達性」は、周囲からすると気品があって美しく見えますので、「上品だ」という意味でも用います。

なお、「老老じ」を語源とする説もあります。あるいは、「リョウリョウジ」と記す写本もあることから、「良良じ」を語源とする説もあります。

「らうたし」も「労」からできた形容詞だったよね。

「らうたし」は、「労・甚し」がつまってできたと言われていますね。「らうらうじ」も「らうたし」も「労」からできた語という説が主流です。

ただし、「労労じ」のほうは、「『労』の末に得られたような洗練された巧みさや美しさ」を形容しています。

一方、「労たし」のほうは、「『労』を向けたいと思うような様子」を形容しています。

ふむふむ。

けっこう違うんだね。

ところが、結果的に似た意味で用いることがあります。

「らうらうじ」という語は、「過度な演出や装飾によるものではなく、機能美ゆえの品質のよさ」を意味しています。たとえば「イチローのバッティング」のように、機能をつきつめて熟達したものは美しく見えますよね。

そういう点で、たとえば子どもや老人などの「屈託ない笑顔」とかも、作為的な装飾などはありませんから、「洗練」に近い雰囲気があります。そのことから「らうらうじ」「上品でかわいらしい」と訳すこともあるんですね。

無印良品のニットカーディガンを「え、これかわいい」と言うような感じだな。

一方、「らうたし」のほうは、力が弱く庇護すべき(「労」を向けるべき)対象を形容することから、「かわいらしい・かわいそうだ」という意味になります。

そうすると結果的に、「らうらうじ」「らうたし」「かわいらしい」という意味で類義的な訳語を適用できることがあります。

たしかに「この道50年」とかのお好み焼き屋のおばあちゃんが「お好み焼きをひょいっとひっくり返す様子」なんかは、熟達の極みでありながら、名人級のかわいらしさがあるよね。

あれこそ「らうらうじ」ですね。

例文

故御息所の御姉、おほいこにあたり給ひけるなむ、いとらうらうじくうたよみ給ふことも、おとうとたち御息所よりもまさりてなむいますかりけむ。(大和物語)

(訳)故御息所の姉、長女にあたりなさった方は、たいそう洗練されて【巧みに】歌をお詠みになることも、妹たちや御息所よりもすぐれていらっしゃった。

少し至らぬことにも御魂の深くおはして、らうらうじうしなし給ひける御本性にて、(大鏡)

(訳)(藤原行成は)少し不得意なことについても、生まれつきのご才能が深くいらっしゃって、巧みに【才たけているように】実行しなさるご性質で、

夜ふかくうちいでたるこゑの、らうらうじう愛敬づきたる、いみじう心あくがれ、せんかたなし。(枕草子)

(訳)(ほととぎすの)夜更けに鳴き出した声で、上品で美しく魅力があるのは、たいそう心がひかれて、どうしようもない。