いにしへの 奈良の都の 八重桜 今日九重に にほひぬるかな (伊勢大輔)

いにしへの ならのみやこの やへざくら けふここのへに にほひぬるかな

和歌 (百人一首61)

いにしへの 奈良の都の 八重桜 今日九重に にほひぬるかな

伊勢大輔 『詞花和歌集』

歌意

遠い昔の、奈良の都の八重桜が、今日は宮中で美しく咲いていることよ

作者

作者は「伊勢大輔」です。

中宮彰子に仕えたんだね。

ポイント

いにしへの

「いにしへ」は「遠い昔」のことです。

平安時代からしてみれば、奈良時代はけっこう昔ですよね。

伊勢大輔の時代は西暦1000年くらいですから、平安京に移ってから200年あまりが過ぎています。

奈良の都の

『古本説話集』によれば、京の宮中に、年に一度、奈良から八重桜が届けられたそうです。

それを取り次いで、歌をつけて献上する役目を紫式部が務めていたのですが、この年は伊勢大輔に役目を譲ったとされます。

八重桜

ソメイヨシノとは違って、八重桜は花びらがたくさん重なっています。

今でも奈良公園で有名な桜ですね。

今日九重に

「今日」は「京」の掛詞にもなっています。

「いにしへ⇔けふ」「奈良⇔京」という対語のようになっているのですね。「八重⇔九重」も対語のようになっています。

「九重」は、「宮中」を意味することばです。むかしの中国の王城では、9つの門をくぐらないと中に入れなかったのですね。それくらいしっかりと守られていたわけです。それになぞらえて、「九重」というと「皇居・宮中」を意味するようになりました。

この「ここのへ」は「ここの辺」つまり「このあたり」も意味しているので、「宮中」と「このあたり」の掛詞にもなっています。

にほひぬるかな

「にほふ」は、香りを意味することもありますが、見た目の美しさにもよく使われます。

ここでは対象が桜なので、「見た目の美しさ」ととらえるほうが自然ですね。

「美しく咲いていたことよ」