いとやむごとなききはにはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。(源氏物語)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

いづれの御時おほんときにか、女御にようご更衣かういあまたさぶらひたまひける中に、いとやむごとなききはにはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。はじめより「我は。」と思ひあがりたまへる御方々、めざましきものにおとしめそねみたまふ。

源氏物語

現代語訳

どの天皇の時代であったか、女御、更衣が大勢お仕えなさる中に、それほど高貴な身分ではないが、格別に帝の寵愛を受けていらっしゃる方がいた。(宮仕えの)初めから、「自分こそは(帝の寵愛を受ける)」と自負していらっしゃる(女御、更衣の)お方々は、(寵愛を受けていた女性を)気に食わない者としてさげすみ、ねたみなさる。

ポイント

いと 副詞

「いと」は副詞です。

普通は「たいそう・非常に・とても」と訳しますが、下に打消表現を伴うと、「それほど(~ない)」「あまり(~ない)」「たいして(~ない)」などと訳します。

「いと~ず」という表現になると、「否定の度合い」が「大きくない」というニュアンスになるのですね。

ここでは、「あらぬが」の「ぬ」「打消」の助動詞「ず」の連体形なので、この構文に該当することになります。

やむごとなし 形容詞(ク活用)

「やむごとなき」は、形容詞「やむごとなし」の連体形です。

ここでは「高貴な」と訳します。

「止む+事+無し」が一語化した動詞です。

「捨てておけない」「やむをえない」ということから、「捨てておくことができないほど格別なもの」を意味するようになりました。

そのことから、「身分が高い」「高貴である」という意味でも使用されるようになりました。

きは 名詞

「きは」は名詞です。「際」と書きます。

「端」「境目」「ほとり」「時」「折」など、様々な意味で使用されますが、階級の区別を指して「身分」「家柄」と訳すことも多いです。ここでは「身分・家柄」の意味になります。

時めく 動詞(カ行四段活用)

「時めき」は、動詞「ときめく」の連用形です。

「時流に乗って栄える」「(帝の)寵愛を受ける」などと訳します。

「~めく」が、「~らしく見える」「~のようになる」ということですから、「時(の人)のようになる」ということですね。

ここでは文脈上、「時めく」の主語は「女御・更衣」の中にいる誰かですから、「寵愛を受ける」と訳すほうがいいですね。