分をわきまえず出すぎている
意味
(1)身のほど知らずだ・身分不相応だ・あつかましい・大それている・大胆だ
(2)恐れ多い・もったいない
ポイント
「大気(おほけ)」に、「はなはだしくそうである」ことを意味する接尾語「なし」がついて「おほけなし」になったとする説があります。
「大それている」というようなニュアンスで「身のほど知らずだ・身分不相応だ」などと訳すことが多いです。
ああ~。
「本来いるべき場所から大きいほうに(上に)ズレちゃっている」ということなのかな。
そうですね。
「実際の身分や能力に比べて上位に出すぎてしまっている」ことを示しやすいです。
「負ふけ + 無し」という説もありますが、「おふけなし」という表記が現存しないようなので、「大けなし」説のほうが主流です。
文脈的にはマイナスの意味で使われやすいのかな。
そうですね。「批判」や「反省」の文脈でよく登場します。
客観的な状況というより「心情語」のように用いている場合は、(2)のように訳しておくといいですね。
「(立場につり合わず)恐れ多い」「(立場にふさわしくなく)もったいない」という感じです。ただ、古語は「客観的な状況描写」なのか「心情描写」なのか明確には分けられないことが多いので、(1)(2)の区別はあいまいです。
いきなり話が飛ぶんですけど、現代語で「おっかない」というのは、この「おほけなし」から来ていると言われています。
へええ~。
「そんなおっかないこと言うなよ!」とかの「おっかない」のことかな。
そうです。
もともと「身分不相応なこと」というのは、本人または周囲の人がドキドキハラハラして「恐ろしいこと」です。
たとえば、新入社員に「明日から社長やって」という展開になったら、新入社員にとっては「恐ろしいこと」ですよね。
まあそれ、会社にとっても恐ろしいことだけどね。
もともとの「身分不相応」のほうの意味が薄れて、「恐ろしい」という意味合いのほうが残り、現在の「おっかない」になっていったのだと考えられています。
例文
なほいとわが心ながらもおほけなく、いかで立ち出でしにかと、(枕草子)
(訳)やはりたいそう自分の心でありながらも身分不相応で【身のほど知らずで】、どうして(宮仕えに)出てきたのであろうかと、
ねずみの、娘をまうけて、「天下に並びなき婿をとらん。」と、おほけなく思ひ企てて、(沙石集)
(訳)ねずみが、娘を得て、「天下に比類ない(最高の)婿を取ろう。」と、身のほど知らずに【あつかましく】思いもくろんで、
信頼の衛門の督、おほけなく二条院を脅かし奉りしも、(増鏡)
(訳)信頼の衛門の督【藤原信頼】が、恐れ多くも二条院を脅かし申し上げたが、
「平治の乱」にまつわる箇所です。
この「おほけなく」は、「身のほど知らずにも」と訳すこともできます。
このように(1)(2)は明確には区別しにくいです。