たのし【楽し】 形容詞(シク活用)

満ち足りている

意味

(1)愉快だ・楽しい *精神的な充足感

(2)裕福だ・豊かだ・不自由がない *物体的な充足

ポイント

「手(た)」「伸し(のし)」で「たのし」という説があります。

ばして舞い踊るほど、なんだか満ち足りている様子ということですね。

手を伸ばして舞い踊ることが「手伸し」で「たのし」なんだ!

平安初期に活躍した斎部広成いんべのひろなりの『古語拾遺』によると、

天照大神が天の岩戸から出てきて、世に光がもたらされたときに、神々が

あはれ あなおもしろ あなたのし あなさやけ おけ

(すばらしい、ああおもしろい、ああ愉快だ、ああ清々しい、そのようにしておけ)

と喜んだそうです。

神道のお祈りでは「手伸し」と書いてあるものもありますね。

手を伸ばしてノビノビ踊っていたら、見るからに楽しそうだもんね。

もとはそのように、踊りだしたくなるような「精神面での充足感」を意味することばでした。

やがて、「物質面での充足」も意味するようになり、「裕福だ」「豊かだ」「不自由がない」といった意味でも用いられるようになります。

試験などでは、どちらかというと(2)の意味で問われることが多いですね。

ああ~。

たしかに(1)の意味だと現代語と同じだから、古今異義語として問うなら(2)になるよね。

例文

正月立ち春の来たらばかくしこそ梅を招きつつ楽しき終へめ (万葉集)

(訳)正月になり春が来たらかのようにして梅を招きよせては愉快なことの限りを尽くそう。

堀川相国は、美男のたのしき人にて、そのこととなく過差を好みたまへり。(徒然草)

(訳)堀川の太政大臣は、美男の裕福な人であって、何につけても度を越えたぜいたくをお好みになった。