え(~打消表現) 副詞

can(not)

意味

(1)~できない・うまく~できない・とても~できない

打消表現を伴わずに……

(2)よく(~できる) うまく(~できる)  *上代の用法

ポイント

動詞の連用形「え」が副詞化したものです。

「得」は「手に入れる」ということであり、「やりかたをつかむ」とか、「方法を心得る」という意味合いを含んでいます。

もともとは「うまくできる」という意味で用いられましたが、平安時代には下に打消表現を伴う用法だけになっていき、もっぱら「できない」の意味で用いられました。

いまでも「えも言われぬ風景」なんて使うもんな。

そうですね。

古文でも、「えも言はず」「えも言はぬ〈体言〉」という表現は多く出てきます。

たいていは、「(言葉で)言うことができないほど(すばらしい)」というように、「ほめ言葉」として使用しますが、まれに「(言葉で)言うことができないほど(ひどい)」という意味で使うこともあります。文脈判断になりますね。

とにかく、「え」があったら、たいていは「ず」などがあるんだな。

はい。

打消表現とセットになりますので、「呼応の副詞」「陳述の副詞」のひとつです。

ああ~。

うしろに「決まった語」を導きやすい副詞を「呼応の副詞(陳述の副詞)」って言うんだったな。

例文

我は、三巻四巻をだに、見はて。(枕草子)

(訳)私は、(二十巻はおろか)三巻四巻すら、読むことができないだろう

誰もいまだに都慣れぬほどにて、見つけ。(更級日記)

(訳)誰もまだ都に慣れていないころで、(源氏物語を)見つけることができない

もいは匂ひの、さと薫りたるこそ、をかしけれ。(徒然草)

(訳)言うことができない(ほどすばらしい)匂いが、さっと香ってきたのは、しみじみと趣深い。

その暴波おのづからなぎて、御船進みき。(古事記)

(訳)その荒波は自然に静まって、御船はうまく進むことができた。

このように、「~できる」という意味で使われたのは、上代までとされています。

平安時代以降は、「ず」「じ」「まじ」「で」などを伴って、「~できない」という文意で使用されることが主流となりました。