ありがたきもの 『枕草子』 現代語訳

ありがたきもの。~

ありがたきもの。舅にほめらるる婿。また、姑に思はるる嫁の君。毛のよく抜くる銀の毛抜。主そしらぬ従者。

めったにないもの。舅にほめられる婿。また、姑に思われるお嫁さん。毛がよく抜ける銀の毛抜き。主人の悪口を言わない従者。

つゆのくせなき。~

つゆのくせなき。かたち心ありさますぐれ、世にふる程、いささかのきずなき。同じ所に住む人の、かたみに恥ぢかはし、いささかのひまなく用意したりと思ふが、つひに見えぬこそかたけれ。

少しの癖もない人。容姿、性格や態度が優れ、この世を過ごす間、少しの欠点もない人。同じ所に(宮仕えして)住む人で、互いに気兼ねして、少しの隙もなく気を配っていると思う人が、最後まで(隙が)見えないということはめったにない。

物語、~

物語、集など書き写すに、本に墨つけぬ。よき草子などはいみじう心して書けど、必ずこそ汚げになるめれ。

物語や集【歌集】などを書き写すのに、本に墨をつけない(こともめったにない)。(質の)よい紙などはたいそう注意して書くが、必ず汚らしくなるようだ。

男女をば言はじ、~

男女をば言はじ、女どちも、契り深くて語らふ人の、末まで仲よき人かたし。

男女(の仲)を言うまい、女同士でも、固い約束をして親しくする人で、最後まで仲のよい人はめったにない。