
〇和歌


世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ 海人の小舟の 綱手かなしも (鎌倉右大臣)

世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる (皇太后宮大夫俊成)

思ひわび さても命は あるものを 憂きに堪へぬは 涙なりけり (道因法師)

ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有り明けの 月ぞ残れる (後徳大寺左大臣)

玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの よわりもぞする (式子内親王)

心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな (三条院)

やすらはで 寝なましものを さ夜ふけて かたぶくまでの 月を見しかな (赤染衛門)

もろともに あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなし (前大僧正行尊)
