さかし【賢し】 形容詞(シク活用)

知性的

意味

(1)賢い・利口だ・賢明だ

(2)すぐれている・たくみだ・気が利いている

(3)しっかりしている・気丈だ

(4)こざかしい・利口ぶっている

ポイント

「しっかりと合理的に判断できるようす」を意味する形容詞です。

迷いなく判断できるということは、知性があり、その知性を発揮していることになりますから、多くの場合は(1)(2)(3)の意味になります。

ただ、本当はたいしたことがないのに、うわべだけ知性的にふるまっている場合もありますよね。そういうケースでは、(4)の訳し方をします。

いまでも、「こざかしい」なんて使うよね。

「さかし」からできたことばですね。

「さかし」だけでもマイナスの意味で使用することがありますが、「こざかし」となっている場合には、100%マイナスの意味です。

ほかにも「さかしら」という名詞がありまして、これも「利口ぶること」というマイナスの意味で使用されます。

なんかこう、相手を下にみて、「あんたのためを思ってやってるんだ」みたいな行動に「さかしら」を使っている場面があった気がするな。

「相手よりも自分のほうが利口だと思い込んだ行動」という文脈で「さかしら」を使用することがありますね。

その場合、「おせっかい」とか「でしゃばり」とか「余計なお世話」なんて訳すこともあります。

なるほど。

同じく「利口だ」という意味で使用する語に「かしこし」がありますが、「かしこし」のほうは、対象をおそれ敬う気持ちがベースにあるので、プラスの意味でしか用いません。

「さかし」のほうは、対象の「本質面」というよりは「態度面」の利口さを意味しているから、中身が伴っていない場合に悪口みたいになるんだね。

そういうことですね。

例文

昔、さかしき帝の御政の折は、(大鏡)

(訳)昔、かしこい【賢明な】帝の御政治の際は、

落ちかかりぬとおぼゆるに、あるかぎりさかしき人なし。(源氏物語)

(訳)(雷が)頭上に落ちたと思われるので、そこにいるすべて(の人のうち)しっかりしている人はいない。

こと人々のもありけれど、さかしきもなかるべし。(土佐日記)

(訳)他の人々の(和歌)もあったが、たくみなものもあるはずがない(気の利いたものもないに違いない)。

さかしらする親ありて、思ひもぞつくとて、この女をほかへ追ひやらむとす。(伊勢物語)

(訳)おせっかいなことをする親がいて、(息子が女に)執着すると困ると思って、この女をほかのところへ追い出そうとする。

「さかしら」という名詞の用法ですね。「利口ぶる」というニュアンスです。

「さかしら」はこの例文のように、「自分をかしこいと思い込んで行動に出てしまうような状態」を指しやすいです。そのため、「おせっかい」「でしゃばり」などと訳すことがあります。