まずはほんのちょっと
意味
(1)かすかだ・ほのかだ・わずかだ *物体の一端だけが現れていること
(2)ほんの少しの時間だ・ほんのわずかの間だ *時間が短く部分的であること
ポイント
もとは「初」であって、「物事の初めの部分がちらっと現れる様子」ということです。
そのことから、物体的にも時間的にも、「かすか」であることを意味します。
でも、漢字は「僅か」なんだな。
「わづかなり(僅かなり)」という別の形容動詞もありまして、こちらは、「全体の量そのものがとても少ないこと」を意味しています。
その点で、「全体の中でのほんのちょっとの一部分」に着目している「はつかなり」とは別の意味合いです。
しかし、「そもそも少ない」のであっても、「全体の中でのほんの一部分」であっても、言及したい対象が「ほんの少しだ」という点では一致しているので、「わづかなり」と「はつかなり」はそのうち混同されるようになります。
「はつかなり」に「僅」の字を用いたりするなど、混同が進んだ結果、鎌倉時代には「はつかなり」のほうは用いられなくなってしまいました。
へえ~。
でも、「全体の量そのものが少ないこと」と、「全体の中でのほんの一部分」って、けっこう違う気がするけどな。
これがまた、「仄かなり(ほのかなり)」という形容動詞もありまして、これも「かすかだ」「わずかだ」という意味になるんですね。
この「ほのかなり」は、「ほんの少ししか見えていないけれども、その裏に大きなものが隠れている」というニュアンスになりやすいことばです。そういう点で、これも「はつかなり」に似ているんですよ。
ああ~。
「量がわずかだ」という点では、「わづかなり」と意味が似ているし、「大きなもののうちのほんの少し」という点では「ほのかなり」と意味が似ているということは、「はつかなり」という語でなければ表現できない事柄というものがそんなにないことになるね。
少なくとも鎌倉時代に入るころには、人々の意識もそのようになっていたのでしょうね。
例文
さし出でさせ給へる御手のはつかに見ゆるが、(枕草子)
(訳)(袖から)お出しになっている(中宮様の)お手がわずかに(ちらりと)見えるのが、
今宵の遊びは長くはあらで、はつかなるほどにと思ひつるを、(源氏物語)
(訳)今晩の管絃の遊びは長くはなくて、ほんのわずかな時間だと思っていたのに、