隠す/慕う
意味
忍ぶ(バ行上二段活用/四段活用)
(1)人目を避ける・隠す
(2)耐える・こらえる
偲ぶ(バ行四段活用/上二段活用)
(1)懐かしむ
(2)思い慕う
(3)賞賛する・ほめる
上代では「しのぶ(上二段活用)」と「しのふ(四段活用)」という別の語であり、活用が異なりました。濁音/清音の違いもありました。
意味も別々の語であり、「忍ぶ」は「隠す・こらえる」ということで、「偲ぶ」は「懐かしむ・思い慕う」ということです。
ただ、語形も意味も似ていることから、中古では混同が起きて、本来「上二段」である「忍ぶ」が「四段」でも用いられるようになり、逆に本来「四段」である「偲ぶ」が「上二段」でも用いられるようになっていきました。そのため、活用で区別することは困難です。
漢字で書かれていればその時点で判別可能ですが、ひらがなで書かれている場合には、がんばって文脈判断しましょう。
たしかに、「偲ぶ」が「心の中で思い慕う」ことだとすると、思いを心の中にひそかに隠しているイメージがあって、意味も似ているように思えるね。
例文
長き夜をひとり明かし、遠き雲居を思ひやり、浅茅が宿に昔をしのぶこそ、色好むとは言はめ。(徒然草)
(訳)長い夜を一人で明かし、遠く離れた所(にいる人)に思いを向け、茅の茂る荒れた家で昔を懐かしむ【昔の恋人を恋い慕う】ことこそ、恋愛の情を理解していると言うのだろう。
「偲ぶ」のほうの意味ですね。
心地には、かぎりなくねたく心憂しと思ふを、しのぶるになむありける。(大和物語)
(訳)心では、この上なくいまいましくつらいと思うのを、こらえているのであった。
「忍ぶ」のほうの意味ですね。
「我慢する」という意味合いで訳していますが、「心の中に隠している」と訳すこともできます。
秋山の木の葉を見ては黄葉をば取りてそしのふ青きをば置きてそ嘆く (万葉集)
(訳)秋の山の木の葉を見ては、黄色く色づいた葉は手に取って賞賛する。青い葉はそのままにしておいてため息をつく。
「偲ぶ」のほうの意味ですね。上代では「しのふ」という清音です。