うるさくしないでね
意味
(1)(ああ)うるさい・やかましい
(2)しっ、静かに
ポイント
感動詞「あな」に、シク活用の形容詞「かまし」がついて、「あなかま」と表現したものです。
直訳すれば「ああうるさい」ということですが、特にそれほどやかましくないときにも使用されます。つまり、「騒がしい」という「事実」を述べているというより、「静かにしてほしい」場面で「お願い」として用いられるので、慣用的に(2)のように訳すことが多いです。
ああ~。
よく学校の先生が「うるさい!」って言うけど、それは慣用的に「静かにしなさい」って言っているわけだからな。
「うるさい」と言われて、言われた側が「静かにしろってことだな」と理解して、実際に静かにするという一連の流れというのは、けっこう高度なコミュニケーションですよね。
でもこれって、いわゆる「語幹用法」での「シク活用形容詞」は、「ーし」まで語幹とみなすはずだから、「あなかまし」になるんじゃないの?
そうなんですよね。
「あな」+シク活用の「かまし」であれば、理論上は「あなかまし」になります。「あなかまし」の例もあるのですが、中古では「あなかま」で定着しています。
そのことから、「かまし」に「ク活用」もあった(またはク活用化した)と推測されています。
ああ~。
たしかに、辞書を引くと、「かまし」を「ク活用」としているものもあるね。
ただ、「ク活用」の活用語尾を確認できる例が見当たらないんですよね・・・。
「やかまし」とか「かしかまし」などのように、複合形容詞として発展した語が「シク活用」なので、「かまし」も同様にシク活用とみなす立場が優勢のように思います。
これといった決め手がないんだね。
活用は度外視して、「あなかまし」を早口で言っているうちに短くなったわけじゃないの?
ああ~。
たしかに、「静かにしてほしい場面」というのは、だいたいの場合はすぐに静かにしてほしいわけですから、「あなかまッ!」という感じで、最後の「し」をきっぱり発音せずに使ううちに、「あなかま」になったのかもしれませんね。
なんか、平成中期以降の漫画のタイトルにありそうだね。
『あなかまッ!』
『とめはねっ!』みたいな感じですかね。
ああ~。
『とめはねっ!』は名作中の名作だったね。
ところで、「あなかま」は、「あなかまたまへ」というように、動詞っぽく使うこともあります。
「うるさい(状況だ)」というより「静かにしてほしい」という意味で定着しているからこそ、「あなかまたまへ」のような用法が出てきます。
「お静かになさいませ」といった訳になります。
ここまでくると、「ク活用・シク活用」の次元を超えてくるね。
例文
その、もののたまふなるは。あなかま。なにごとをのたまふぞ。聞け聞け。(今昔物語集)
(訳)その人が【谷底に落ちた人】が、ものをおっしゃっているようだ。し、静かに。何事をおっしゃっているのか。(周りの者も)聞け聞け。
人々、いとかたはらいたしと思ひて、「あなかま」と聞こゆ。
(訳)女房たちは、(源氏の来訪を喜ぶ紫の上のはしゃぎ方を)たいそうみっともないと思って、「し、静かに」と申し上げる。
あなかまたまへ。夜声はささめくしもぞかしかましき。(源氏物語)
(訳)お静かになさい。夜の声はささやくほうがやかましい。
「あなかまたまへ」という慣用表現です。
動詞のような使い方ですね。