「然」なのか「避」なのか
意味
然らぬ
(1)そのほかの・それとは別の
(2)それほどでもない・たいしたこともない
避らぬ
(1)避けられない・のっぴきならない
ポイント
指示語「然」+動詞「あり」+打消の助動詞「ず」の連体形が一体化しているのが「然らぬ(さらぬ」です。
「指示しているもの以外」ということから、「そのほかの」「それとは別の」といった訳をします。
「然」というのが、「語るに値する何か」を漠然と指示していることもあり、その場合の「さらぬ」は、「それほどでもない」「たいしたこともない」などと訳します。
「さらぬ」の「さら」が、動詞「避る(さる)」の未然形である場合もあるんだね。
はい。
その場合は、「避けられない」「のっぴきならない」などと訳します。
ひらがなで書かれていると区別が難しいのですが・・・
「さらぬ別れ」という表現で用いられているのは「避」のほうです。これは「避けられない別れ」つまり「死別」を意味する慣用表現です。
例文
頭中将、左中弁、さらぬ君たちも慕ひ聞こえて、(源氏物語)
(訳)頭中将、左中弁、そのほかのご子息がたもお慕い申し上げて、
涙おしのごい、さらぬ体にもてないて申しけるは、(平家物語)
(訳)涙をおしぬぐい、たいしたことではない【それほどではない】様子にふるまって申し上げたことには。
えさらぬ事のみいとどかさなりて、(徒然草)
(訳)避けることができない用事ばかりがますます重なって、
「避らぬ」だけでも「避けられない」と訳すのですが、ここでは「え(~ず)」の構造になっているので、よりいっそう「できない」という意味合いが強まっていますね。
よのなかに さらぬ別れの なくもがな 千代もと祈る 人の子のため (伊勢物語)
(訳)世の中に避けられない別れ【死別】がないといいなあ。(親が)千年も(生きるように)と祈る、人の子【私のような者】のために。
「さらぬ別れ」という言い回しになっている場合は「避らぬ」のほうだと考えましょう。
「回避することができない別れ」すなわち「死別」を意味しています。