〈問〉次の傍線部の古文を現代語訳せよ。
四月のつごもり、五月のついたちのころほひ、花のいと白う咲きたるが、橘の葉の濃く青きに、雨うち降りたるつとめてなどは、世になう心あるさまにをかし。花の中より、こがねの玉かと見えて、いみじうあざやかに見えたるなど、露に濡れたるあさぼらけの桜に劣らず。ほととぎすのよすがとさへ思へばにや、なほさらに言ふべうもあらず。梨の花、よにすさまじきものにして、近うもてなさず、はかなき文つけなどだにせず。
現代語訳
四月の月末、五月のはじめのころ、花がたいそう白く咲いているのが、橘の葉が濃く青々としている中に、雨が降った翌朝などは、比類なく奥ゆかしい様子でおもしろい。花の中から、(実が)黄金の玉かと見えて、たいそう鮮やかに見えていることなどは、朝露に濡れている夜明け方の桜(の美しさ)に劣らない。ほととぎすの拠り所とまで思うからだろうか、やはり言うまでもない(ほどすばらしい)。梨の花は、実に興ざめな花として、身近に取り扱わず、ちょっとした手紙を結びつけることさえもしない。
ポイント
はかなき 形容詞
「はかなき」は、形容詞「はかなし」の連体形です。
「はかなし」は「果無し」と書きます。
「果」とは、定量的な目当てや見当を意味しますので、たとえば、「果」をかさねた「はかばかし」とう形容詞であれば、「予定通りに物事が進むこと」を表します。
さて、「はかなし」の場合、その「果」が「無し」なので、「はっきりした目当てがない」ということになります。
そのことから、「頼りない」「あっけない(むなしい)」「なんということもない(ちょっとしたことだ)」などと訳すことになります。
ここでは、「なんということもない手紙」「ちょっとした手紙」などと訳せるとよいですね。
だに 副助詞
「だに」は副助詞です。
「だに」は、「希望・意志・命令・仮定」などの文で用いると、「せめて~だけでも(したい・してほしい・しよう・せよ・すれば)」などと訳します。
「否定」の文で用いると、「~さえ(ない)」と訳します。
ここでは否定の文脈で使用されているので、「ちょっとした手紙に結びつけることさえない」などと訳します。
「だに」についてくわしくはこちら。