「少納言よ。香炉峰の雪いかならむ。」と仰せらるれば、(枕草子)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

雪のいと高う降りたるを例ならず御格子まゐりて、炭櫃に火おこして、物語などして集まりさぶらうに、「少納言よ。香炉峰の雪いかならむ。」と仰せらるれば、御格子上げさせて、御簾を高く上げたれば、笑はせたまふ。人々も、「さることは知り、歌などにさへ歌へど、思ひこそ寄らざりつれ。なほ、この宮の人にはさべきなめり。」と言ふ。

枕草子

現代語訳

雪がたいそう高く降り積もっているのに、いつもとは違って御格子を下ろし申し上げて、炭櫃に火をおこして、(女房たちが)世間話などをして集まっておりますと、(中宮様が)「少納言よ。香炉峰の雪はどうであろう。」とおっしゃるので、(人に)御格子を上げさせて、御簾を高く上げたところ、(中宮様は)お笑いになる。女房たちも、「そのようなこと(白居易の漢詩)は知っていて、歌などにまで歌うけれど、(御簾を実際に高く上げるとは)思いもよらなかった。やはり、(清少納言は)この中宮様にお仕えする人としてはふさわしいようである。」と言う。

ポイント

香炉峰の雪

白居易(唐王朝の時代の中国の詩人)の詩の一節です。

白居易は、地方に左遷されてしまったのですが、部屋から香炉峰の雪景色が見える暮らしを肯定的にとらえ、詩にしました。

「大都市の長安じゃなくてもいいや。田舎の暮らしものんびりしていいもんだなあ」という感じの詩ですね。

日高睡足猶慵起
(日は高くなり、睡眠は足りているが、まだ起きるのは億劫だ)
小閣重衾不怕寒
(小さな家でふとんを重ねているから、寒さは気にならない)
遺愛寺鐘欹枕聽
(遺愛寺の鐘は枕を傾けて聞き)
香爐峰雪撥簾看
(香爐峰の雪はすだれを高く上げて眺める)
匡廬便是逃名地
(匡廬こそは、名誉をのがれる地)
司馬仍爲送老官
(司馬は、老後を送る官としては十分だ)
心泰身寧是歸處
(心も身も安らかな所は、すなわち私が帰るべき場所だ)
故郷何獨在長安
(故郷が長安でなければならないわけはない)

いかなり 形容動詞

「いかなら」は、形容動詞「いかなり」の未然形です。

「どうである」どのようである「どのくらいである」ということを示す語ですが、基本的には「疑問」「推量」の文脈で使用されます。

たしかに、普通の文で、「雪はどうである!」「雪はどのくらいである!」って言っても、何言ってるかわかんないよね。

そうですよね。

いかなるものか (どのようなものか) 
いかなるべし (どうであろう)

といったように、「疑問」や「推量」で使えば、意味として成り立ちますよね。

特に連用形「いかに」のかたちでの使用が多かったので、「いかに」はのちに副詞化していきました。

む 助動詞

「む」は、助動詞「む」の終止形です。「いかならむこと」など、後ろに何らかの体言を補うこともできるので、「連体形」と考えることもできます。ここでは「推量」の意味です。

「いかなら」で、「どうであるだろう」と訳すことになります。

仰せらる 連語 ★最高敬語

仰す 敬語動詞(サ行下二段活用)

「仰せ」は、敬語動詞「おほす」の未然形です。

「主体(行為者)」を高める「尊敬語」であり、「おっしゃる」と訳します。

らる 助動詞

「らるれ」は、助動詞「らる」の已然形です。

「る」「らる」には、「自発」「受身」「尊敬」「可能」の意味がありますが、尊敬語「仰す」についている場合、「敬意をさらに高めるはたらき」をしており、「尊敬」の意味に分類します。

そうすると、「尊敬語」+「尊敬の助動詞」ということになりますので、そのへんの貴族には使用しない最高レベルの尊敬を示していることになります。これを「最高敬語」または「二重尊敬・・などと言います。

まれに「二重敬語・・と書かれている指導書や参考書がありますが、「最高敬語」のことを「二重敬語」というのは、本来であれば望ましくありません。

「敬語」には「尊敬」「謙譲」「丁寧」がありますが、「最高敬語」というのは、あくまでも「尊敬・・表現」が二重に用いられている場合であるからです。そのため、「二重尊敬」と言うほうが、実体に即して限定した「より的確な用語」になります。

なんていうか、「モドリッチ」のことを「サッカー選手」と言えばいいのに、「スポーツ選手」と言っているようなものなんだな。

そうです。

さらに言うと、現代語でいう「二重敬語」という語自体が、「敬語を重ねすぎた、かえって無礼な言い方」というマイナスの意味を持つんです。

古文でいう「二重尊敬(=最高敬語は、天皇・上皇・皇后・中宮などに対して「使用した方がよい」とされる正式な表現です。

その「最高敬語」という正式な表現を、現代語において「かえって無礼な表現」という意味を持ってしまう「二重敬語」という語句で表すのは、学習者の混乱を招くので、あまりいいことではないと思います。

ば 接続助詞

「ば」は接続助詞です。

「未然形」についていれば「仮定条件」と考え、「(もし)~ならば」「(もし)~すれば」などと訳します。

「已然形」についていれば「確定条件」と考え、「~なので」「~(する)と」「~(した)ところ」などと訳します。

ここでは、已然形「らるれ」についていますので、「確定条件」と考え、「おっしゃるので」または「おっしゃる」などと訳します。ここは「ので」がいいですね。

「已然形+ば」という「確定条件」は、次の①②③のどれかで訳します。

① 原因・理由 ~ので、
② 偶然条件 ~(する)と / ~(した)ところ
③ 恒常条件 ~(する)といつも / ~(する)と必ず


たいていは①か②です。

くわしくはこちら。

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