おぼろけなり【朧けなり】 形容動詞(ナリ活用)

くっきり際立っていない ⇒ 目立たない ⇒ 平凡だ

意味

(1)並一通りだ・普通だ・平凡だ

(2)並々でない・格別だ・特別だ

ポイント

「朧(おぼろ)」という語がありまして、これは「ぼんやりしている・かすんでいてはっきりしない」ということです。

「おぼろけなり」は「朧」「気(雰囲気・気配)」があるということですから、事実としてかすんでぼんやりしているわけではなくとも、雰囲気的にはかすんでぼんやりしている状態を意味しています。「オーラが際立っていない」ということですから、「普通だ」「並大抵だ」と訳すことになりますね。

お月様がぼんやりしているのは?

それは実際に、物理的にかすんでいるわけですから、「おぼろなり」というほうが適切です。

ある人物の存在感がパッとしないのは?

「ある人物」が物体としてかすんでいるわけではなくて、その人の「雰囲気・気配」がかすんでいることになりますよね。

それこそが「おぼろなり」です。

ただ、実際の使用例としては、「おぼろけならず」といったように、打消表現を伴って「並大抵でない」という文脈になることがほとんどです。選択肢の訳としては、打消表現まで含んで「格別だ」というように、肯定文にしてしまうこともあります。

そうすると、どういうわけか、打消し表現がないのに「おぼろけ」だけで「格別だ」という意味で使用されるケースが出てきました。それが(2)の用法です。

うわあ。

そういうのやめてほしい。

「おぼろけならずも~なし」とか、二重否定の文脈で使用されたりしているうちに、「おぼろけなり」だけで「おぼろけならず」の意味を持つようになっていったようですね。

たとえば、『土佐日記』に、次のような一節があります。

おぼろけの願によりてにやあらむ。風も吹かず、よき日出で来て、漕ぎ行く。
並々でない祈願のかいがあったのだろうか。風も吹かず、よい陽が出てきて、船を漕いでゆく。)

ああ~。

「おぼろけ」を打ち消していないのに、「格別な祈願」をした文脈になっているな。

ただ、そもそもは「並大抵だ・普通だ・平凡だ」ということですから、「おぼろけ」だけで「格別だ」という意味を担っているケースを試験で問うのはけっこう意地悪ですよね。

これを試験で問うてくる先生がいたら、ハードな精神の持ち主だと言えます。

例文

おぼろけなら忍ぶべきことなれば、そこにもまた人には漏らしたまはじ、(源氏物語)

(訳)並大抵でなく(特別に)人目を避けなければならないことなので、あなたもまた人にはお漏らしにならないだろう、

このように、打消表現をつけることで、「並一通りではなく」という意味で用いることがあります。端的に訳せば「特別に」などとなります。

おぼろけのよすがならで、ひとの言にうちなびき、この山里をあくがれたまふな。(源氏物語)

(訳)並大抵でない(格別の)縁でなければ、人の言葉になびいて、この山里をお離れになるな。

この例文が、「おぼろけ」だけで「並でない・格別だ」という意味で解釈するハードな用法です。

ただ、同じ『源氏物語』でもともとの用法があるわけだから、「単なる誤用」ってわけでもないんだろうね。