朽ちてゆくのが名残惜しい
意味
(1)残念だ・がっかりだ・惜しい
(2)つまらない・おもしろくない
(3)情けない
ポイント
「惜し(をし)」は「名残惜しい」「手放しにくい」という意味です。
「口」は当て字であり、「くち」の由来は「朽ち」「心地」などの説があります。
「朽ち」だとすると、「ダメになったもの」に対して「惜しい」と思っていることになりますね。
あわせると、「くち」+「をし」は、「期待に反する現象」に対しての「落胆や失望」を意味していると考えられます。そこで、「残念だ」「つまらない」などと訳すのですね。
「腐ったみかん」を発見して、「食べられなくて残念だ」って思っているような感じかな。
よいイメージだと思います。
似た意味の形容詞に「くやし」というものがありまして、こちらも「残念だ」と訳します。
ただ、「くやし」のほうは、「自分のしてしまった行為」を後悔する意味での「残念だ」ということです。
「くちをし」のほうは、「他人の行為や自然現象」など、自分の力ではどうにもならない状況でダメになったものに対して、「残念だ」と思う気持ちを示します。
なんか、現代語だとおんなじ意味に思えるけどな。
時代が経って、お互い似てきちゃったんでしょうね。
だんだん、「くちをし」を「くやし」の意味合いで使用する例も出てくるので、江戸時代くらいの古文の問題だと、「くちをし」を「くやしい」と訳すようなものもあります。
例文
わが子供の、影だに踏むべくもあらぬこそ口惜しけれ。(大鏡)
(訳)私【藤原兼家】の子供が、(藤原公任の)影さえも踏むことができないことが残念だ。
「雀の子を犬君が逃しつる。伏籠のうちに籠めたりつるものを」とて、いとくちをしと思へり。(源氏物語)
(訳)「雀の子を犬君が逃がしてしまった。伏籠の中にとじこめていたのに」と言って、ひどくがっかりだと思っている。
「夜に入りてものの映えなし」と言ふ人、いとくちをし。(徒然草)
(訳)「夜になると物の見ばえがない」と言う人は、たいそうつまらない【情けない】。
これらの例文の共通点は、どれも「自分がしたことではないこと」に対して、落胆・失望・不満の気持ちを持っていることです。
これが「くちをし」の特徴です。