無邪気な子ども
意味
(1)幼い・年少だ
(2)あどけない
ポイント
「いと」が「幼いこと」を意味しており、「気(け・き)」がその「様子」を意味しています。
したがって、「いとき」という表現が、現代語で言うと「おさなげ」という意味を持っていることになります。
それに、「はくはなだしくそうである」という意味の接尾語「なし」がついて、「いとけなし・いときなし」という形容詞が成立しました。
どうして、「いと」が「幼いこと」になるんだ?
そこは……謎ですね。
個人的な推測ですが、「糸」が細くて頼りないからではないでしょうか?
ああ~。
じゃあ、「ひも」が大人で、「なわ」がじいさんばあさんだな。
「いとけなし」 ⇒ 幼い
「ひもけなし」 ⇒ 大人である
「なわけなし」 ⇒ 年老いている
ということでしょうか。
ただ、残念ながら「ひもけなし」と「なわけなし」は存在しません。
「んなわけない!」の「なわけなし!」ってなもんだな。
……ええっと、話を戻しますと、「いとけなし」の「け」、「いときなし」の「き」は、「気」であり、「見た目」を示していますので、基本的には「見た様子」を示す形容詞です。
「子どもらしく、無邪気であどけない様子」を、「よいもの」ととらえて使用することが多いです。
その一方、類義語に「いはけなし」がありますが、「いはけなし」のほうは、「内面も含めた存在全体」について、「幼くて頼りない」という意味合いになります。
「いとけなし・いときなし」は、「子どもらしい無邪気さ(プラス要因)」が意味の中心で、「いはけなし」のほうは、「子どもらしい頼りなさ(マイナス要因)」が意味の中心だということなんだな。
プラスマイナスに関係ない場合もありますが、「いとけなし・いときなし」は肯定的文意に、「いはけなし」は否定的文意に使用することがけっこうあります。
もうひとつ「をさなし」という類義語もありますが、「をさなし」は単純に「成熟していない」ということを意味しており、プラスマイナスの感覚はそれほどありません。
ついでに言っておくと、
いとけなし
いときなし
いはけなし
の「なし」は、すべて「はなはだしくそうである」という意味の接尾語ですので、セットで覚えておくのがいいと思います。
例文
いとけなき子をもふり捨て、老いたる親をもとどめおき、これまで付きまゐらせてさぶらふ志をば、いかばかりとか思し召されさぶらふらん。(平家物語)
(訳)幼い子どもをも見捨てて、老いた親をも置き去りにし、これまで(あなたに)従い申し上げております誠意を、どれほど(深い)とお思いになっていらっしゃるでしょうか。
いときなき手して、薄鈍の紙にて、むろの枝につけたまへり。(蜻蛉日記)
(訳)あどけない筆跡で、薄いねずみ色の紙に書いて、むろの枝につけ(て送ってき)なさった。