いはけなし【稚なし】 形容詞(ク活用)

子どものたよりなさ

意味

(1)子供っぽい・あどけない

(2)幼くて頼りない・幼稚である

(3)(年齢が)幼い

ポイント

語源はよくわかっていませんが、「言ひあやけなし」がつまったものではないか、と説明されることがあります。

「言ふ」は、「口頭での発言」です。「あや」は、書き言葉であり、「理屈の流れ」などを示すこともあります。

その「話し言葉」と「書き言葉」が混ざってしまっているような、理路整然としていない言語活動は、まさに「子どもっぽくて頼りない」ものですよね。

ああ~。

小論文に「マジで」とか書いちゃって、赤ペン先生に直されるパターンだな。

そうですね。

言語活動が大人のように洗練されておらず、たどたどしい様子が、まさに「子どもっぽい」ということで、「いはけ(いわけ)」という名詞がすでにそういう意味を持っていたようです。

ということは、「なし」は、「無し」ではないんだな。

そうですね。「はなはだしくそうである」ということです。

おぼつかなし
はしたなし

などの「なし」は、「無」ではなく、むしろ語幹の意味を強めていると言えます。

意味を強めている「なし」の用法について、くわしくはこちらをどうぞ。

じゃあ、「いはけなし」は、「見た目」というよりは、むしろ「精神年齢」的なものなんだな。

「見た目」として使うこともありますが、「性格」や「内面も含めた雰囲気」に使うことが多いですね。

類義語に「いとけなし」という語もあって、「幼い」「年少である」などと訳すのですが、こちらは「実際の年齢」や「見た目」に使うことのほうが多いです。

「いはけなし」と「いとけなし」があるのか……

「いはけなし」のほうは、「幼くて頼りない」ということを示していますので、子どもに対して使っていれば、「守らなければならない(守ってあげたい)対象」に使用することが多いです。

大人に対して使っていれば、「実際の年齢ほどの頼りがいがない」というニュアンスになるので、あまりよい意味ではないことになります。

「いとけなし」のほうは、シンプルに「年少だ」ということを示しており、子どもらしい無邪気さなどを肯定的にほめている使用法が多いですね。

例文

まだむげにいはけなき程にはべるめれば、(源氏物語)

(訳)(女の子【のちの紫の上】は)まだむやみに幼い【幼くて頼りない年齢でございますようなので、

いはけなくかいやりたる額つき、髪ざし、いみじううつくし。(源氏物語)

あどけなく(髪を)かき上げた額のようすや、髪の生え具合が、たいそうかわいらしい。