なり 助動詞(伝聞・推定)

意味

① ~の音がする・~が聞こえる

② 【推定】 ~ようだ・~らしい

③ 【伝聞】 ~という・~とかいう・~そうだ

ポイント

音(ね)+あり」がつまったものです。活用語の「終止形」について、「~という音がある」という意味をつけるようなイメージですね。

そのため、何か実際に音が聞こえている場面であれば、「~の音(声)がする」「~が聞こえる」などと訳します。

聞こえてきた音を「根拠」にして、(音がするということは……)「~ようだ」と訳すのが「推定」の用法です。

「音」が「人々のうわさ・評判」などを意味していれば、「伝聞」の用法です。「~という」「~そうだ」などと訳します。

「聴覚情報」ということなんだな。

なんか、「視覚情報」で同じようなやつがなかったっけ?

助動詞「めり」ですね。

そちらは「見+あり(見え+あり)」がつまって「めり」になりました。

見た目で判断していたら「めり」で、音で判断していたら「なり」なんだな。

そうです。

どちらも「~ようだ」と訳すことが多いのですが、「めり」の根拠は目に入ってきた情報で、「なり」の根拠は耳に入ってきた情報です。

ところで、助動詞「なり」って、「断定」の意味もあるよね。

はい。

あちらは「体言(or活用語の連体形)にあり」がつまったものなので、別々の助動詞です。

くわしくはこちら。

まぎらわしい。

「伝聞・推定」の「なり」は、上代では「すべて終止形につく」という接続でしたが、平安時代以降は「ラ変型につくときは連体形につく」という変化をしましたので、ますます見分けがつきにくいです。

じゃあ、「あるなり」とかの「なり」はどっちかわかんないな。

ただ、「あるなり」の「なり」は、「断定」の助動詞と考えて大丈夫です。

どうしてかというと、「伝聞・推定」の場合には、「あんなり」と撥音便化して、「あなり」という撥音便無表記の表現になることがほとんどであるからです。

当時の人々も見分けられる工夫をしていたということかな。

「あなり」「ななり」「美しかなり」といったように、「なり」の直前が「撥音便無表記」になっている場合は、「伝聞・推定」と考えます。

撥音便無表記が多いために、「ありなり」「なりなり」などという終止形接続が、そのまま「あなり」「ななり」になっていったという説もあるくらいです。

いずれにせよ、試験問題においては、「あるなり」「なるなり」の「なり」は「断定」で、「あなり」「ななり」の「なり」は「伝聞・推定」と区別して大丈夫です。

そのあたりの識別については、別記事にしました。

例文

源氏の光君こそ、公の御かしこまりにて、須磨の浦にものしたまふなれ。(源氏物語)

(訳)源氏の光君が、朝廷からのおとがめで、須磨の浦にいらっしゃるという(ことだ)。

「伝聞」の意味ですね。

笛をいとをかしく吹き澄まして、過ぎぬなり。(更級日記)

(訳)笛をたいそう見事に一心に吹いて、通り過ぎてしまったようだ

「笛の音」を根拠に「通り過ぎたようだ」と推しはかっているので、「推定」の用法です。

音羽山今朝越えくればほととぎす梢はるかに今鳴くなる(古今和歌集)

(訳)音羽山を今朝越えて来ると、ほととぎすが梢はるかに今鳴いているのが聞こえる【鳴いている声がする】。

ここでは「鳴き声が聞こえる」という意味で使用されています。

このように、「係り結び」の「結び」にある「なる」「なれ」が助動詞である場合、「伝聞・推定」の「なり」であることが多いです。