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「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」
ってなんだかおかしいよね。
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どこがですか?
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動詞の「す」が、「すなる日記」のところと、「するなり」のところで、同じように「なり」についているはずなのに、片方は「す」で、片方は「する」になっているんだ。
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それは、「なり」が別々の「なり」だからです。
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うわあ。
そっち系か。
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「体言」についている「なり」、あるいは「活用語の連体形」に普通についている「なり」は、「断定」の「なり」です。
「~である」「~だ」と訳します。まれに、「~にある」「~にいる」と訳します。
もともとは、「〇〇にあり」で、その「にあり」がつまったのが「断定」の「なり」です。
この国の人にもあらず
というように、「に」と「あり」のあいだに「し」「も」「ぞ」「こそ」といった助詞が入ることもあるのですが、その場合、「に」だけを指して「断定の助動詞〈なり〉の連用形」と判断します。
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そうか。
じゃあ、「するなり」の「する」は「連体形」だから、「なり」は「連体形」についているということで、「断定」の助動詞だな。
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そうです。「するのである」とか「するのだ」と訳せばいいですね。
一方、「すなる日記」の「す」は「終止形」です。
「終止形」についている「なり」は「伝聞・推定」の助動詞です。
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「するとかいう日記」なんて訳せばいいのか。
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そうです。
「伝聞・推定」の「なり」は、「音(ね)あり」がつまったものです。
もともとは、文意がいったん終わって、「~という音がする」とくっつける感じの助動詞なのですね。
そのため、何か実際に音が聞こえている場面であれば、「~音がする」「~声がする」「~が聞こえる」と訳します。
何らかの音を根拠にして、(音がするから)「~ようだ」「~らしい」と訳すのが「推定」の用法です。
「音」が「人々のうわさ・評判」などを指す場合、「伝聞」の用法です。「~とかいう」「~という」「~そうだ」「~と聞いている」などと訳します。
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「鳥鳴くなり」なら、「鳥鳴く音あり」だから、
鳥鳴く…という音がする
「馬走るなり」なら、「馬走る音あり」だから、
馬走る…という音がする
っていう感じかな。
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そんな感じです。
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文意がいったん完結して、「そんな音がするよ」「そんなうわさがあるよ」って感じで補助的にくっつけるということは、「伝聞・推定」の「なり」は「終止形」につくんだな。
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そうです。
ただ、「ラ変型の活用語に接続する場合はその連体形につく」とされています。
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え?
「断定」の「なり」も「連体形」につくわけだから、「あるなり」とか「行かざるなり」とかの「なり」については、「断定」の「なり」なのか「伝聞・推定」の「なり」なのかわかんないじゃないか。
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いちおう見分ける方法があります。
たとえば、「あり」に「伝聞・推定」の「なり」を付けるのであれば、「連体形につく」というルールにしたがうと、「あるなり」になるはずなんですね。
ところが、「あるなり」の「なり」が「伝聞・推定」であるケースってほぼないんですよ。
「あり」に「伝聞・推定」の「なり」がつく場合には、「あんなり」と撥音便化して、その「ん」が表記されないパターンが多いです。
「ず」に「伝聞・推定」の「なり」を付けるのであれば、「ざるなり」⇒「ざんなり」となり、表記上は「ざなり」となるパターンになります。
これを逆にいうと、「撥音便・撥音便無表記」のうしろの「なり」が「断定」になるケースはまずありません。
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へえ~。
じゃあ、「あんなり」「あなり」「ざんなり」「ざなり」みたいに、「撥音便」または「撥音便無表記」のうしろの「なり」は、「伝聞・推定」と判断していいということなんだな。
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はい。
少なくとも入試レベルの古文の読解においては、そう考えて問題ないです。
たぶんなんですけど、「~である!」と「~という音がする・・・」というのは、当時の人にとっても判別できないと困るわけですから、「音便が起きていないほう」は「断定」というナチュラルな見分け方があったんじゃないでしょうか。
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ああ~。
たしかにね。
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他にもいくつか見分けるポイントがあるので、示しておきます。
見分けるポイント
「断定」の「なり
① 未然形「なら」の形は「断定」 *「伝聞・推定」に「なら」の形はない。
② 連用形「に」の形は「断定」 *「伝聞・推定」に「に」の形はない。
③ 「体言(連体形)+なりけり」の「なり」は「断定」
④ 「形容詞」の「本活用」についている「なり」は「断定」
⑤ 推量・推定の助動詞「べし・めり」などが下についている「なり」は「断定」
「伝聞・推定」の「なり」
① 撥音便・撥音便無表記についているものは「伝聞・推定」 *無表記が多い。
② 係り結びの「結び」にあるものは、「伝聞・推定」
③ 「すなる日記」というように、「連体修飾語」になっているものの多くは「伝聞・推定」
④ 「形容詞」の「補助活用」についている「なり」は「伝聞・推定」
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入試問題の次元でいいますと、
撥音便(撥音便無表記)のうしろの「なり」は「伝聞・推定」
「係り結び」の「結び」の「なる(なれ)」は「伝聞・推定」
という法則は覚えておいたほうが便利です。
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だいぶ詳しくなったぞ!
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ただ、「なり」はほかにも、
動詞「なる」の連用形
形容動詞(ナリ活用)の語尾
という可能性もあるので、ざっくり4パターンの識別ができる必要があります。
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ぐはあ。