今日は「可能推量」と呼ばれるものについてです。
完了の助動詞+推量の助動詞
こないだの試験で、助動詞「む」の意味を問う問題があって、「可能推量」っていう選択肢があったんだけど、あれは何なんだ?
「む」の前に「な」か「て」がありませんでしたか?
つまり、「なむ」か「てむ」になっていませんでしたか?
ああ~。
なってたかもしれない。
いわゆる「確述用法」の一種なので、先に「確述用法」について知っておきましょう。
くわしくはこちら。
完了の助動詞「ぬ」や「つ」に、意志や推量の助動詞「む」や「べし」がくっつくと、
確実性が高い意志や推量を表す
というやつだな。
そのとおりです。
「確実性が高い意志や推量」なので、
「きっと~しよう」「きっと~だろう」
と訳すことが多い言い回しです。
ただ、訳の仕方は様々というか、柔軟性が高く、
「間違いなく~しよう」とか「今にも~だろう」
などというように、「何らかの強調句」をつけて訳すことが多くなります。
そうだった、そうだった。
思い出してきたぞ。
でも、「確実性が高い」って、別の言い方をすると、「可能性が高い」ってことですよね。
そりゃそうだ。
さっき「訳の仕方は様々」と言ったのですが、
「てむ」や「なむ」が「可能性が高い意志や推量」であることが表現できればいいわけですから、文脈によっては「~できるだろう」って訳す場合があります。
これが「可能推量」です。
雨降りなむ。
を「雨が降ることができるだろう」とするのはおかしな訳ですが、
(軍略がうまくいけば)敵の将を討ちてむ。
などという文は、「討ち取ることができるだろう」と訳すことができますね。
でことは、あくまでも「てむ」や「なむ」のセットで「できるだろう」となっているわけであって、その「む」にだけ線を引いて、「可能推量」を正解にするのはおかしいんじゃないの?
うーん。
ただ、辞書を引くと助動詞「む」の項目に「可能の推量」という項目があるから、ぎりぎりセーフですね・・・。
とはいえ、その部分の例文は、まず間違いなく「てむ」か「なむ」になっています。
実際の例文を見てみましょう。
例文その1
梓弓おしてはるさめ今日降りぬ明日さへ降らば若菜摘みてむ
(訳)梓弓 あたり一面に春雨が今日降った 明日もまた降るならば 若菜を摘むことができるだろう
「きっと若菜を摘もう」と訳したらダメなの?
「明日も春雨が降るならば、(その雨によって若菜が伸びてくるから、)若菜を摘むことができるだろう」
という流れになっているので、「可能推量」と考えるほうがいいですね。
判断しやすい例文を見ておきましょう。
例文その2
かばかりになりては、飛びおるるともおりなむ。
(訳)これほど(の低さ)になれば、飛び降りても降りることができるだろう。
ああ~。
これはまさしく「できるだろう」っていう訳になるな。
「飛び降りたとしても」という「仮定条件」がありますからね。
そういえば、さっきの例文にも、「雨が降るならば」っていう「仮定条件」があったな。
「なむ」や「てむ」を「可能推量」で考える場合は、たいてい前提として「仮定条件」がありますね。
例文その3
帝、「さて、何も書きたらんものは、よみてんや。」と、仰せられければ、
(訳)帝が、「さて、何でも書いてあるようなものは、読むことができるのだろうか。」と、おっしゃったところ、
これには「仮定条件」がないな。
「書きたらんもの」の「ん」という助動詞がポイントです。
文中連体形の「ん(む)」は、「仮定・婉曲」の意味になるのです。
「仮定」なら「(もし)~としたら」
「婉曲」なら「~ような」
と訳すのですが、この「仮定」と「婉曲」はどちらで訳せることも多くて、ほとんど区別できないんです。
ここでは「婉曲」のほうが訳しやすいので、「書いてあるようなもの」と訳しましたが、「仮定」のニュアンスでも訳せるのですね。
「書いてあるとしたら、そういうものは読むことができるのだろうか」
という感じです。
要するに、文中連体形の「ん(む)」は、「婉曲(~ような)」という訳になっていても、根本的には「仮定」のニュアンスを含み持っている場合が多いということです。
そういう点で、この例文にも「仮定条件」があるようなものなのですね。
文中連体形の「ん(む)」は、「仮定」の意味合いを含んでいることが多いんだな。
そのとおりです。
文中連体形の「ん(む)」は、なんでもかんでも「婉曲」で訳しがちなんですけど、本質的なニュアンスはむしろ「仮定」であることがほとんどです。
可能推量まとめ
(1)いわゆる確述用法の一形態
(2)「なむ」「てむ」「ぬべし」「つべし」などを、「できるだろう」と訳す場合は、「可能推量」と考えてよい。
(3)多くの場合、前提として「仮定条件」が存在する。
(もし~になれば、)~できるだろう
(もし~をすれば、)~できるだろう
(もし~であっても、)~できるだろう
(もし~をするとしても、)~できるだろう
助動詞「む(ん)」の文中連体形の用法も、「仮定」のニュアンスが濃いということをおさえておきましょう。