意味
(1)【過去】 ~た
ポイント
「き」は、終止形は「来」から、他の活用形は「為」からきているという説があります。
そのため活用は、次のように「サ行」「カ行」を併せ持ったものになります。
未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
(せ)/ ○ / き / し / し か / ○
現代語でも、
結論ありきで話す
わが谷は緑なりき
導かれし者たち
ありし日の思い出
とか、ときどき使ってるよね。
まさに、過去の助動詞「き」の名残ですね。
過去の助動詞「き」の特徴のひとつは、「語り手の記憶にそもそも存在する出来事」を示しやすいということです。多くの場合、「語り手のいる時間軸における過去点」を意味します。そのため、「体験過去」とか「回想」という言い方をすることもあります。
映画『わが谷は緑なりき』などは、初老のモーガンが、自身の半生を振り返った物語ですから、まさに、「き」がふさわしいですね。
同じくらいのときに、『風とともに去りぬ』って映画があったな。
どちらも、古文の助動詞をうまく使ってるよね。
そうですよね。
なお、「き」は、ここまで述べてきたように「実体験の回想」を示しやすいのですが、そうではない場合もあります。
その場合は、「疑いようのない確実な過去」を示しており、「確実過去」などと言われたりします。
ということは、物語などによく使われる「けり」とは、けっこう性格が違うんだな。
物語の地の文で使用されている「けり」などは、「伝わってきた話をいま呼び起こす」ということです。
「ほかから伝わってきた」ぶんだけ、本当かどうか不確かな話もけっこう混じっていますね。
くわしくはこちらをどうぞ。
例文
はかなきついで作り出でて、消息など遣はしたりき。書き馴れたる手して、口とく返り事などしはべりき。(源氏物語)
ちょっとした機会を作り出して、手紙などを送った。書きなれた筆跡で、すばやく返事などを送ってきました。
一夜のうちに塵灰となりにき。(方丈記)
(訳)(火事のため)一夜のうちに塵や灰になってしまった。
「に」は、完了の助動詞「ぬ」の連用形です。
その人、ほどなく亡せにけりと聞きはべりき。(徒然草)
(訳)その人は、間もなく亡くなったと聞きました。
「亡くなった」という出来事は「伝聞の過去」であるため、「けり」が用いられています。
一方、「聞く」という出来事は「体験の過去」であるため、「き」が用いられています。
昔、博士にて大学頭明衡といふ人ありき。(宇治拾遺物語)
(訳)昔、(文章)博士で、大学頭明衡という人がいた。