文ことばなめき人こそいとどにくけれ。(枕草子)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

文ことばなめき人こそいとどにくけれ。世をなのめに書き流したることばのにくさこそ。さるまじき人のもとに、あまりかしこまりたるも、げにわろきことぞ。されど、わが得たらむはことわり、人のもとなるさへにくくぞある。

枕草子

現代語訳

手紙の言葉が無礼な人はひどく気に入らない。世間をいいかげんに思って無造作に書いてある言葉が嫌なことは言うまでもない。そうするべきでもない人のもとに、あまりにかしこまって書いているのも、実によくないことだ。しかし、(そのような手紙を)自分が受け取ったらもちろん、他人のもとに来たものまでも気に入らないと思う。

ポイント

なめし 形容詞(ク活用)

「なめき」は、形容詞「なめし」の連体形です。

「なめし」は、「無礼だ」という意味です。

「滑(=なれなれしい)」から来ているとも、「生(=生々しい)」から来ているとも言われます。

いとど 副詞

「いとど」は、「いといと」がつまったものであり、「いと」よりも程度がますます極端になる様子を表しています。

「ますます」「いっそう」などと訳すことが多いのですが、この文のように、前の状態と比べて「ますます」「いっそう」というわけでもない場合は、単純に「いと」を強めて、「ひどく」「はなはだしく」などと訳すこともあります。

にくし 形容詞(ク活用)

「にくけれ」は、形容詞「にくし」の已然形です。

「にくし」は、現代語の「憎い」ほどのネガティブな意味は強くなく、「まったくもう、憎たらしい」くらいの軽めの悪口です。

そのため、「憎い」とそのまま書くのではなく、「憎らしい」「気に入らない」「いやだ」などのように、ちょっと「軽い感じ」が出るように訳すほうがいいですね。

「にくし」を使用した「心にくし」という形容詞になると、マイナスな意味はほとんどなく、優れたものに対して「にくいほど心引かれる」といった意味合いになります。