にくし【憎し】 形容詞(ク活用)

意味

① 気に入らない・にくらしい・しゃくに障る

② みっともない・見苦しい

③ 優れている

ポイント

「憎」という字を使うのですが、現代語と比べて、「憎悪」のような気持ちはほとんどありません。軽い感じで、「なんだかちょっと気に入らないねえ…」というイメージです。

そういった事物や現象に対する「心情」をあらわす場合は①の訳し方で、事物や現象そのものを形容する場合は②の訳し方をします。

そこまではわかったけど、どうしてこれが③の「優れている」という訳になるんだ?

対象がぶざまな場合も「気に入らないねえ…」と思うでしょうけれども、対象が立派な場合も、「気に入らないねえ…」と思ったりしませんか?

ああ~。

嫉妬心みたいなもんか。

そうですね。

現代語でも、結婚式とかでのろけている新郎新婦に対して、「よ! ニクイね! この!」なんていう場面がありますよね。

古語でも、「軽く嫉妬しちゃうぞ!」みたいな意味で、「にくし」を使う場面があります。その場合は、「優れている」などと訳しましょう。

ほほう。

ついでに言っておくと、この「にくし」が「心」についた「心にくし」という形容詞は、①②のようなマイナスの意味はほとんどありません。

「奥ゆかしい」とか「心ひかれる」などと訳します。

そういう点で、「心にくし」の「にくし」は③の用法に似ていますね。

例文

にくきもの。急ぐことあるをりに来て長言するまらうと。(枕草子)

(訳)気に入らないもの。急用があるときに来て長話をする客人。

桜の花は優なるに枝差しのこはごはしく、もとのやうなどもにくし。(大鏡)

(訳)桜の花は優美であるのに枝ぶりがごわごわしていて、幹の様子なども見苦しい