こころにくし【心憎し】 形容詞(ク活用)

中身を知りたいんだ

意味

(1)奥ゆかしい・心ひかれる

(2)恐るべきだ・警戒すべきだ *中世以降の用法

(3)あやしい・不審だ *近世以降の用法

ポイント

「心」+「憎し」です。

古文での「にくし」は、もともとは「やすし」の反対の意味をもつ語だったと考えられています。つまり「にくし」は、「簡単にはいかない」という意味が根にあります。

「対象への理解・納得がうまくいかない」ということから、「対象にとらわれている状態(対象に魅力を感じてしまっている状態)」も意味するようになるのですね。そのことから、「にくし」だけでも、心情語としての機能が備わっています。

その「にくし」に「心」がついた「心にくし」は、いっそう心情語としての性格が強まっていると考えるといいですね。

ちょっと観点の異なる説としては、「心にくし」は、特に「対象の心の動き(内側のようす)」にとらわれている状態を示すとも言われます。

その考えによれば、「奥ゆかしい」という訳はぴったりですね。

心(内側)がわからなくて、そのことについて理解したいと思ってしまっているんだね。

まさに「奥ゆかしい」ということだ。

そうですね。

さて、平安末期になると、武士の争いが増えてきますね。すると、戦う相手の「心(考えていること)」を理解しなくてはなりません。

相手の考えていることがわからないと、それは脅威になりますから、「心にくし」を「恐るべきだ」という意味で用いるケースが出てきます。この(2)の使い方は中世で定着しました。

(1)は、「何を思っているのかわからなくて、もっと知りたくなるほど魅力的!」っていうことで、

(2)は、「敵が何を考えているのかわからなくて、警戒しなければいかん!」っていうことなんだな。

そうです。

(2)が日常的にこなれてくると、身近な相手にも使うようになりますから、もうちょっとマイルドに「あやしい」くらいの訳し方になっていきます。それが(3)の意味です。

ただ、試験に出るのはほとんど(1)の意味ですね。

「平安期の文学なら(1)で決定」「軍記物語なら(2)の可能性を疑う」くらいでOKです。

例文

初めこそ心にくくもつくりけれ、今はうちとけて、(伊勢物語)

(訳)(新しい妻は)最初は奥ゆかしく化粧をしていたが、今は気を許して、

奥に、碁石のに入るる音あまたひびききこゆる、いと心にくし。(枕草子)

(訳)奥のほうで、碁石を器に入れる音が何度も響いて聞こえるのは、たいそう心ひかれるものだ。

さだめて討手向けられ候はんずらん。心にくうも候はず。(平家物語)

(訳)きっと追っ手をお向けになりますでしょう。(しかしそれは)恐るべき【警戒すべき】ほどではございません。

こころにくし。おもき物をかるう見せたるは隠しがねにきはまる所。(世間胸算用)

(訳)あやしい【不審だ】。重い物を軽く見せているのは、隠し金に相違ないこと。