〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。
「桜の散らんはあながちにいかがせん、苦しからず。わが父の作りたる麦の花散りて、実の入らざらむ、思ふがわびしき。」
宇治拾遺物語
と言ひて、さくりあげて、
「よよ。」
と泣きければ、うたてしやな。
現代語訳
(児は)「桜が散るのは無理にどうしようか、いや、どうしようもなく、苦しくはない。父が作った麦の花が散って、実が入らないとしたら、それを思うとつらい」と言って、しゃくりあげて、泣いたので、がっかりしたことだよ。
ポイント
ん 助動詞(仮定・婉曲)
「ん」は「仮定・婉曲」の助動詞「ん」の連体形です。
「仮定」で訳すならば、「桜が散るとしたらそれは~」となります。
「婉曲」で訳すならば、「桜が散るようなことは~」となります。
助動詞「ん」は、文中連体形の場合、「仮定・婉曲」になります。
どちらでも訳せる場合が多く、この場面でも両方通用します。
「仮定・婉曲」の「ん」については、無理に訳出しなくてもいいとされています。ここでも、「桜が散るのは~」としてしまっても問題ありません。
あながちなり 形容動詞(ナリ活用)
「あながちに」は、形容動詞「あながちなり」の連用形です。
「あな(自分)」が「勝つ」ということで、「自分勝手」という意味合いになります。
「強ちなり」という漢字のイメージから、「強引に・無理に」という訳に結びつけられるといいですね。
いかがせん 連語
副詞「いかが」+動詞「す」+助動詞「ん」です。
「疑問」であれば、「どうしようか」と訳します。
「反語」であれば、「どうしようか、いや、どうしようもない」と訳します。
「疑問」なのか「反語」なのかは、前後を読まないとわかりません。
ここでは、後ろで「苦しくない」と言っています。
また、桜ではなく「麦の花が散ることがつらい」と述べていることから、「桜の花が散ること」については、「どうしようもないよね」とあきらめている文脈になります。
したがって、「反語」でとっておくのがいいですね。