世俗の虚言をねんごろに信じたるもをこがましく、「よもあらじ」など言ふも詮なければ、(徒然草)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

とにもかくにも、そらごと多き世なり。ただ、常にある、めづらしからぬ事のままに心得たらん、よろづ違ふべからず。下ざまの人の物語は、耳おどろく事のみあり。よき人は怪しき事を語らず。かくはいへど、仏神の奇特、権者の伝記、さのみ信ぜざるべきにもあらず。これは、世俗の虚言をねんごろに信じたるもをこがましく、「よもあらじ」など言ふも詮なければ、大方はまことしくあひしらひて、ひとへに信ぜず、また疑ひあざけるべからず。

徒然草

現代語訳

とにもかくにも、虚言が多い世の中である。ただ、(世の中に)普通にある、珍しくない物事のように心得れば、万事間違えることはない。下々の人の語る物語は、びっくりすることばかりである。教養ある人は怪しい事を語らない。そうはいっても、仏神の霊験や、神仏の化身とされる人の伝記などを、それほど信じないほうがよいわけではない。こういう話は、世俗のうそを熱心に信じるのもばからしく、(逆に)「まさか(そんなことは)あるまい」など言うのも仕方がないので、たいていは本当のこととして対応して、一途に信じず、また疑い嘲ってもいけない。

ポイント

ねんごろなり 形容動詞(ナリ活用)

「ねんごろに」は、形容動詞「ねんごろなり」の連用形です。

「熱心だ」「丁寧だ」などと訳します。

もともとは「根もころ」だと言われています。「根と根が絡み合っている様子」です。

細かくしっかりとからまっている様子から、「(入念で)熱心だ」「(念入りで)丁寧だ」という意味になります。

をこがまし 形容詞(シク活用)

「をこがましく」は、形容詞「をこがまし」の連用形です。

「ばからしい」という意味です。

「をこ」は「痴」です。

「痴」は一言でいうと「ばか」のことであり、「をかし」「をこがまし」「をこなり」など、いくつかの語になりました。

ただ、「ばか」といっても、「楽しく興味深い」というプラスの意味合いと、「愚かだ」というマイナスの意味合いがありますね。

「をかし」は、「知的で趣きがある」というニュアンスで、プラスの意味合いが強い形容詞ですが、「をこがまし」「をこなり」のほうは、「愚かでみっともない」というニュアンスで、マイナスの意味合いで使われます。

よも~じ 呼応の副詞~助動詞

「よも」は副詞です。「じ」と呼応して、「まさか」と訳します。

「よも~じ」でセットで覚えておきましょう!

「じ」は、「打消意志(~ないつもりだ)」「打消推量(~ないだろう)」のどちらかで訳します。どちらになるかは文脈判断です。

詮なし 形容詞(ク活用)

「詮なけれ」は、形容詞「詮なし」の已然形です。

「むだである」「無益である」「仕方がない」などと訳します。

「詮」は、「考えつくしてたどりついたところ」という意味です。

(考えつくしたことによる)結論
(考えて出した)方法・手段
(考えてわかった)効果・効能

といったことから、「結局・方法・効果」などの訳し方をします。

「詮なし」は、「考えてもまとまらない」「考えても方法がない」「考えても効果がない」ということなので、「(~しても)むだである」「益がない」「方法がない」「仕方がない」といった訳になります。