鈴を付けておきはべらば、易く知りなん。(伊曾保物語)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

ある時ねずみ、老若男女、相集まり詮議しけるは、「いつも猫といふいたづら者に亡ぼさるる時、千度悔やめどもその益なし。かの猫、声を立つるか、しからずば、足音高くなどせば、かねて用心すべけれども、ひそかに近づくほどに、油断して捕らるるのみなり、いかがせん」といひければ、古老のねずみ進み出でまうしけるは、「詮ずるところ猫の首に、鈴を付けておきはべらば、易く知りなん」といふ。皆々、「もつとも」と同心す。

伊曾保物語

現代語訳

ある時、ねずみ、老若男女がともに集まって会議をしたことには、「いつも猫といういたずら者に亡ぼされる時、千回後悔しても、どうしようもない。あの猫が、声を立てるか、そうでなければ、足音を高くなどすれば、あらかじめ用心することができるが、こっそり近づくので、油断して捕らえられるばかりである、どうしよう」と言ったところ、年老いたねずみが進み出て申したことには、「考えつくしたところ、猫の首に、鈴を付けておきましたら、(猫の到来が)きっとたやすく分かるだろう」と言う。皆、「もっともだ」と同意する。

ポイント

はべり 動詞(ラ行変格活用)

「はべら」は、丁寧語「はべり」の未然形です。

動詞の直後につき、補助動詞として使用されている場合、「~です・ます・ございます」のうち、訳しやすいものをあてはめましょう。

未然形 + ば 

未然形についている接続助詞「ば」は、「順接仮定条件」として訳します。

(もし)~ならば・~すれば・~するのなら

などと訳します。

連用形 + なん

動詞の連用形に「なん(なむ)」がついている場合、それは、

完了の助動詞「ぬ」の未然形 + 意志・推量の助動詞「ん(む)」

のセットです。

このとき、「ぬ」を「完了」とはせずに、「強意」「確認」「確述」などと説明する文法書が多いです。
(ただし、「完了」は本来、時制とは関係ないので、この「ぬ」を「完了」とみても間違いとは言い切れません)

いつもなら、完了の助動詞「ぬ」は、「~た」と訳すことが多くなります。

しかし、意志・推量の助動詞「む(ん)」を伴って、「なむ(なん)」の連語になっている場合は、「これから起こること」に対して「確実にそうしよう・確実にそうなるだろう」と述べていることになります。

したがって、「連用形 + なむ(なん)」は、「きっと~しよう・だろう」と訳すことが多いです。

ここでは、「易く知りなん」となっており、「知り」は「連用形」です。

つまり、この「なん」は、「ぬ」+「ん」です。

きっと簡単に分かるだろう

と訳せるといいですね。