まさなし【正無し】 形容詞(ク活用)

「正」が無い。

意味

(1)よくない・好ましくない・不都合だ

(2)見苦しい・みっともない・卑怯だ

(3)思いがけない・意外だ

(4)普通でない・尋常でない

ポイント

「正(まさ)」が「無し」であるので、基本的には「よくない意味」になります。

漠然と「正しくない」というニュアンスであれば(1)の意味になります。

「正しい態度ではない・正義の行いではない」という文脈であれば(2)の意味になることもあります。

(3)は何なの?

「正」には、プラスマイナスとは無関係に、「ちょうど!」「ぴったり!」という意味があります。

まさ君の言ったとおりだ」であれば、「ちょうど君の言ったとおりだ」ということです。

まさ探し求めていたものだ」であれば、「ぴったり探し求めていたものだ」ということです。

このように、「まさに」という語には、「ちょうど思っていたとおり」「イメージとぴったり同じだ」という意味合いがありますね。

それを「なし」で打ち消すと、「思っていたこととずれている」「予想のとおりではない」「イメージとぴったりではない」といった意味になります。

訳としては「思いがけない」「予想外だ」などがいいですね。

「あらかじめ知っている常識とは一致していない」というニュアンスで、「普通でない」「尋常でない」「常識外だ」などと訳す場合もあります。

(3)の用法は、「よくない」というマイナスの意味ではなくて、「思っていたことや知っていたことと一致していない」という感じなんだな。

そうですね。

通常の場合ですと、(3)の使用法でも、どこかマイナスの意味を伴っていることが多いです。

ただ、「思いがけないこと」や「普通でないこと」が、かえってよい場合もありますよね。

そういったことから、「尋常でなくすごい」といった④の意味になることもたまにあります。

「新外国人バッターのスイングは普通とは違うぜ!」なんていう場合、たしかにマイナスの意味とは限らないもんな。

いずれにしても、「まさなし」は、

「正しい行為(選択)」ではない
「正確」ではない
「正義」ではない
「正常」ではない
「正にこれ」ではない


といったように、様々な「正」を打ち消す形容詞です。

文脈にあわせて適訳を考えましょう。

例文

声高になのたまひそ。屋の上にをる人どもの聞くに、いとまさなし。(竹取物語)

(訳)(天人の悪口を)大声でおっしゃっらないでください。屋根の上にいる人たちが聞くと、たいへん好ましくない【不都合だ】

何をか奉りなむ。まめまめしき物は、まさかりなむ。(更級日記)

(訳)(お土産に)何を差し上げようか。実用的なものは、きっとよくないだろう。

あれは大将軍とこそ見まゐらせさうらへ。まさなうも敵に後ろを見せさせたまふものかな。(平家物語)

(訳)あなたは大将軍とお見受け申し上げる。卑怯に【みっともなく】も敵に背中をお見せになるものよ。

いとかうまさなきまで、古の墨書きの上手ども跡を暗うなしつべかめるは、(源氏物語)

(訳)実にこれほど思いがけないほど(上手で)、昔の墨書き【墨絵を書く者】の名人たちが(恥ずかしくて)行方をくらましてしまうだろうほど(上手)であるのは、

この例文は、源氏の君の絵が予想外に上手であることについて述べているものです。

多くの場合、「まさなし」は「よくない」という意味合いを持ちますが、このように、「思いがけない」「意外だ」という意味で用いる場合には、「想像していたよりもすごい」「常識を超えてすごい」というように、ほめている文脈で用いることもなくはないです。