(問)傍線部を現代語訳せよ。
雨のいたう降る日、藤三位の局に、蓑虫のやうなる童の大きなる、白き木に立文をつけて、「これたてまつらせむ」といひければ、「いづこよりぞ。今日、明日は物忌みなれば、蔀もまゐらぬぞ」とて、下は立てたる蔀より取り入れて、
枕草子
現代語訳
雨がたいそう降る日、藤三位の局に、蓑虫のような子どもで大きな者【子ども】が、白い木に立文をつけて、「これを差し上げよう」と言ったので、「どこからか。今日、明日は物忌みであるので、蔀も上げ申し上げないぞ」と言って、下側は立てている蔀から(文を)取り入れて、
前後の話はこちらをどうぞ。
ポイント
の 格助詞(同格)
「童の」の「の」は〈同格〉の格助詞です。
後ろにある「大きなる」も「童」を形容しているので、「蓑虫のやうなる」と「大きなる」が、両方とも同等に「童」を修飾していることになります。
A 体言 の B
という構文の「の」が「同格」であるとき、
Aである体言で、Bである体言
というように、古文では書かれていない「2回目の体言」を登場させて訳せば大丈夫です。
あるいは、「人」「方」「者」などの一般的な名詞に置き換えたり、準体言の「の」で置き換えてしまうこともできます。
選択肢問題の場合、
「蓑虫のようで、大きな童が~」というように、体言を後ろに一回だけ書くこともあります。
たてまつる 動詞(ラ行四段活用)
「たてまつら」は、動詞「奉る」の「未然形」です。
「奉る」は、本動詞であれば「差し上げる」と訳します。
補助動詞であれば「お~申し上げる」と訳します。
ここでは何か別の動詞を補助しているわけではないので、「本動詞」ですね。
手紙を差し上げているわけだな。
「奉る」は、尊敬語の用法もあるのですが、登場回数は多くありません。
(「食ふ」「飲む」「着る」「乗る」などの意味で、貴人そのものの行為に用いられている場合があります)
基本的には「謙譲語」で取っておきましょう。
ここでも、文脈としては「童」が「藤三位」に「文」を渡していますね。
位の高い者に対しての行為ですから、通常通り「謙譲語」と考えます。
「行為の受け手への敬意」ってやつだな
そうです。
「謙譲語」は「客体(行為の受け手)」への敬意を示しますので、この「たてまつる」は「藤三位」への敬意を示しています。
敬意の出発点は常に「その言葉の作り手」です。ここでは地の文ではなく、「童」のセリフの中にありますから、「童」からの敬意を示していることになります。
む 助動詞
「む」は、助動詞「む」の終止形です。ここでは「意志」の意味になります。
けり 助動詞
「けれ」は、助動詞「けり」の已然形です。ここでは「過去」の意味になります。
ば 接続助詞
「ば」は、接続助詞です。「已然形」についている「ば」は、「確定条件」になります。
ここでの「ければ」は、「原因・理由」と考えて「~たので」と訳してもいいですし、「偶然条件」と考えて「~たところ」と訳してもいいですね。