住みつかばさてもありぬべし。(源氏物語)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

家のさまもおもしろうて、年ごろ経つる海づらにおぼえたれば、所変へたる心地もせず。 昔のこと思ひ出でられて、あはれなること多かり。造り添へたる廊など、ゆゑあるさまに、水の流れもをかしうしなしたり。まだこまやかなるにはあらねども、 住みつかばさてもありぬべし

源氏物語

現代語訳

家(山荘)の様子も風情があって、長年過ごした海辺に似ていたので、場所を変えた気もしない。昔のことがふと思い出されて、しみじみと感慨深くなることが多い。造り加えた廊など、由緒ある様子で、遣水の流れも趣深く作った。まだ細部までは行き届いていないが、住みつくのならばそのままでもきっとよいだろう【それはそれでよいだろう】

ポイント

ば 接続助詞

「ば」は、接続助詞です。ここでは「住みつく」の未然形についているので、仮定条件として訳します。

さてもあり 連語

さても 副詞

「さて」は「そのまま」「それで」という副詞です。

「も」がついて「さても」になると、逆接のニュアンスを帯びて、「そうであっても」と訳すことが多くなります。

あり 動詞

「あり」は「存在する」ということです。

「さてあり」となると、「そのままである(いる)」という意味になります。

「さてあり」となると、「そうであっても、ある(いる)」という言い合いになります。

この場合、「そうであっても」の「そう」に当たるのは、たいていくないこと」になります。

つまり、「あんまりよくないこと」があって、それに対して「そうであってもそのままでいる」という文脈になります。

そう考えると、文脈的に、「さてもあり」の「あり」は、前提の「よくないこと」に対して、「そうであってもよい・・」と肯定していることになります。

したがって、訳も「そのままでよい」などとすることが多くなります。

ぬべし 連語

「ぬべし」の部分は、「ぬ」+「べし」であり、このときの「ぬ」は、確述用法などといわれます。

ぬ 助動詞

「ぬ+む」⇒「なむ」、「ぬ+べし」⇒「ぬべし」というセットになるときの「ぬ」は、「確認・確述・強意」などという意味で解釈します。

訳は「きっと」としておけばだいたい問題ありませんが、文脈に不似合いであれば、

間違いなく・必ず・まさしく・今こそ

など、適応する訳語を柔軟に入れましょう。

選択肢問題の場合、「きっと」のかわりにいろいろな強調句が用いられていますから、注意が必要です。

強調句は記述の場合には書いておいたほうがいいのですが、選択肢の場合には省かれていることもあります。

べし

「べし」は、

a.推量 ~だろう
b.意志 ~しよう
c.可能 ~できる
d.当然 ~はずだ・べきだ
e.命令 ~せよ
f.適当 ~がよい

などのように、多様な意味をもちますが、「文末用法」かつ「三人称の行為」であれば、「当然」「推量」で解釈するのが一般的です。

しかも、ここは「ぬべし」という「確述用法」とのセットになっているところですね。

その場合の「む」や「べし」は、基本的に「意志」か「推量」になります。

したがって、ここでの「べし」は、「推量」と考えて、「だろう」と訳すのがいいですね。