![](https://hohoemashi.com/wp-content/uploads/2023/11/sangi02-150x150.jpg)
『今鏡』より、「用光と白波」の現代語訳です。
![](https://hohoemashi.com/wp-content/uploads/2020/03/%E3%82%8F%E3%81%8A%E3%81%84%E3%81%A1%E3%82%8D%E3%81%86%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%97-1-150x150.jpg)
『十訓抄』に同じ素材から作られた話があります。
![](https://hohoemashi.com/wp-content/uploads/2020/03/%E3%82%8F%E3%81%8A%E3%81%84%E3%81%A1%E3%82%8D%E3%81%86%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%97-1-150x150.jpg)
なお、「沖つ白波」とは、「沖に立つ白い波」のことですが、「海賊」の比喩的表現にも使用されます。ここではその「海賊」を意味しています。
用光が、~
用光が、相撲の使いに西の国へ下りけるに、吉備国のほどにて、沖つ白波立ち来て、ここにて命も絶えぬべく見えければ、褐衣、冠などうるはしくして、屋形の上に出でて居りけるに、白波の船漕ぎ寄せければ、その時、用光篳篥取り出だして、うらみた声に、えならず吹きすましたりければ、白波ども、おのおの悲しみの心おこりて、かづけ物ものどもをさへして、漕ぎ離れて去りにけりとなむ。
用光が、相撲の使いとして西の国へ下向した時に、吉備国のあたりで、海賊が現れ来て、(用光は)ここで命もきっと絶えるはずと思われたので、褐衣、冠などをきちんと整えて、(船の)屋形の上に出て座っていたところ、海賊の船が漕ぎ寄せてきたので、その時、用光は篳篥を取り出して、悲しみ嘆くような音色で、何とも言えないほど(すばらしく)吹き澄ましたので、海賊たちは、それぞれ悲しく思う気持ちが生じて、褒美の品々まで渡して、漕ぎ離れて去ってしまったと(いう)。
さほどの理もなき武士さへ、~
さほどの理もなき武士さへ、情かくばかり、吹き聞かせけむもありがたく、また昔の白波は、なほかかる情なむありける。
それほどの道理をわきまえない武士【海賊】ですら、(用光に)情けをかけてしまうほど、吹いて聞かせたとかいうこともめったになく、また昔の海賊は、やはりこのような情趣を解する心があった。