「存在」の尊敬語
意味
(1)いらっしゃる *「あり」「をり」の尊敬語
(2)お出かけになる・おいでになる *「行く」「来」などの尊敬語
(3)おありになる・お持ちになる *「あり」などの尊敬語
補助動詞として
(4)~ていらっしゃる
ポイント
「あり」「をり」などの尊敬表現として、「坐す」という尊敬語があります。
これを重ねると、「坐します」になります。
ああ~。
「天にましますわれらの神よ」の「まします」だな。
その「まします」です。
上代には、尊敬語として「まします」「ます」がよく使用されました。
さて、「坐します」にさらに敬意を重ねると、「大坐します」となり、これが「おはします」という語になりました。
そこから、「ます」が欠落したものが「おはす」だと考えられています(逆に、「おはす」に「坐す」がついて「おはします」になったという説もあります)。
そういう移り変わりがあって、平安時代になると、「まします」「ます」よりも「おはします」「おはす」を使うことが増えてくるんですね。
ということは、
おはします > おはす
という力関係があるんだな。
あります。
平安時代には、「あり」の尊敬表現として、「ものしたまふ」という言い回しも流行するんですけど、敬意の強さでいうと、
おはします > おはす > ものしたまふ
という順序になります。
「ものす」は、もともと「(何か)する」っていう意味だと思うんだけど、「たまふ」がセットになると、「いらっしゃる」って意味で使用できるんだな。
そうですね。
たとえば『源氏物語』においては、
帝や院に対しては、「おはします」一択です。
皇后・中宮・皇太子などに対しては、「おはします」or「おはす」です。
それ以下の貴族に対しては、「おはす」or「ものしたまふ」を使用しています。
ランクに応じて使い分けるんだな。
ところで、もともとの「坐す」は四段活用らしいのに、「おはす」は「サ行変格活用」なんだね。
実は、「おはす」は「四段活用説」や「下二段活用説」があって、きっぱり「これだ!」と言い切れないところがあります。
上代には、「四段」や「下二段」だった可能性もあるんですけど、たしかな例がなく、平安時代の使用法を追いかけると、「サ行変格活用」に分類するのが妥当です。
ただし、時代が下って、鎌倉時代や江戸時代になると、「四段っぽい使い方」や「下二段っぽい使い方」が確認されるので、地方によって活用が違っていたのかもしれません。
いずれにしても、試験で問われたら、「おはす」は「サ行変格活用」として答えるようにしましょう。
例文
御供に、むつましき四五人ばかりして、まだ暁におはす。(源氏物語)
(訳)(源氏は)お供に、親しい四五人ばかりを連れて、まだ夜明け前にお出かけになる。
男君たちは皆、ほどほどにつけて位どもをおはせしを、(大鏡)
(訳)男のお子様たちは皆、年齢や能力に応じて官位などがおありになったが【官位などをお持ちであったが】、
かかる人も世に出でおはするものなりけり。(源氏物語)
(訳)このような(すばらしい)人もこの世に出ていらっしゃるものであるのだなあ。
まだわらはなる君など、いとをかしくておはす。(枕草子)
(訳)まだ、幼いお子様などが、たいそうかわいらしくていらっしゃる。