頼もしきが、心の口惜しくて、(宇治拾遺物語)

(問)次の傍線部を現代語訳せよ。

今は昔、天竺に留志長者とて世に頼もしき長者ありける。大方おほかた蔵もいくらともなく持ち、頼もしきが、心の口惜しくて、妻子にも、まして従者にも物食はせ、着する事なし。

宇治拾遺物語

現代語訳

今は昔【今となっては昔のことだが】、インドに留志長者といって、まことに裕福な長者がいた。およそ蔵もいくつともなく【数えられないほど】持ち、裕福であるが、心が情けなくて、妻子にも、まして召し使いにも物を食べさせたり、着物を着せたりすることがない。

ポイント

たのもし 形容詞(シク活用)

「頼もしき」は、形容詞「たのもし」の連体形です。

「頼もし」は、「頼りになる」「心強い」「期待できる」などの意味を持ちます。

「頼りになる」ということは、実際に富み栄えていることも多く、その場合は、「裕福だ」と訳すことがあります。

ここでは、直前に「蔵を数えきれないほど持っている」とあるので、「裕福だ」の意味で取るのがいいですね。

くちをし 形容詞(シク活用)

「くちをしく」は、形容詞「口惜し」の連用形です。

「くちをし」の「くち」は、「朽ち」からきているという説があります。

その説にしたがえば、「ダメになっているのが残念だ」という意味合いになります。

多くは「残念だ・がっかりだ」と訳しますが、「心が残念だ」と訳すのはちょっとしっくりこないので、ここでは「情けない」などと訳しましょう。