しる所などたびたりけるとなむ。(今物語)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

家に帰りて、中門に下りてのち、「さても、何とか言ひたりつる。」と問ひ給ひければ、「かくこそ。」と申しければ、いみじくめでたがられけり。「さればこそ、使ひにははからひつれ。」とて、感のあまりに、しる所などたびたりけるとなん。この蔵人は内裏の六位など経て、「やさし蔵人」と言はれける者なりけり。

現代語訳

家に帰って、中門で(車を)降りた後、(大納言が)「さて、何と言ったのか」と、(蔵人に)ご質問になったので、「このように。」と申し上げたところ、(大納言は)たいそう称賛なさった。「だからこそ、使いに取りなしたのだ。」と言って、感動のあまり、領地などをお与えになったという(ことだ)。 この蔵人は内裏の六位などを経て、「やさし蔵人」と言われた者であった。

 

ポイント

しる 動詞

「しる」は「知る」なら「理解する」の意味になりますが、「治る(領る)」と書くときは「治める」と訳します。このように、二通りの訳し方がありますが、もともとはどちらも「把握する」という意味であり、その対象が「知識」であるか「民や領地」であるかで違う漢字があてがわれたのではないかと考えられています。

ただ、古文ではひらがなで書かれることが多いので、「漢字で見分ける」という考え方は実際には困難です。前後の文脈から考えましょう。

たぶ 動詞(尊敬語)

「たび」は「給ぶ(たぶ)」の連用形で、「給ふ」と同じ意味です。ここでは尊敬語の本動詞であるから、「お与えになる」と訳せばよいです。

〈+α〉
「給ふ」は、
〈本動詞〉なら「お与えになる」
〈補助動詞〉なら「~なさる」「お~になる」
と訳しましょう。

たり 助動詞

「たり」は存続・完了の助動詞の連用形です。「~た」と訳しましょう。

けり 助動詞

「ける」は過去の助動詞の連体形です。「~た」と訳しましょう。

完了の助動詞と過去の助動詞をセットで用いるときは、必ず「完了+過去」の順番になります。

どちらも現代語にすれば「~た」なので、セットになっていても「~た」と訳せばいいです。

状況によっては、「~てしまった」と訳すこともありますが、基本は「~た」で問題ありません。

なむ 係助詞

「なむ」は、直前が活用語ではないので(未然形でも連用形でもないので)、願望の終助詞でも確述用法でもありません。これは強調のための「係助詞」です。ということは「結び」が必要なはずですが、なくても通じると判断され、省略されています。

「いふ」「ある」「あらむ」といった訳語を文脈に応じて補いましょう。

しる所を得んとす。