年ごろあそび馴れつるところを、あらはにこほちちらして、(更級日記)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

年ごろあそび馴れつるところを、あらはにこほちちらして、立ちさわぎて、日の入りぎはの、いとすごく霧りわたりたるに、車にのるとて、うち見やりたれば、人まには参りつつ額をつきし薬師仏の立ちたまへるを、見すてたてまつる悲しくて、人知れずうち泣かれぬ。

現代語訳

長年遊び慣れたところを、(外から)まる見えになるほど(几帳・御簾・障子などの)建具を乱雑に取り外して、あわただしく出発の準備をして、日の入りの間際の、たいそうひどく霧が立ち込めるときに、車に乗るといって、ふと向こうを見ると、人がいないときには参上しながら(床に)額をついた(お祈りした)薬師仏がお立ちになっているのを、お見捨て申し上げるのが悲しくて、人知れずさめざめと泣いた。

ポイント

年ごろ 名詞

「年」「月」「日」などの語に「ごろ」がつくと、ある程度の「幅」をもった語として扱われます。

「年ごろ」→「長年」「ここ数年」

「月ごろ」→「数か月」「ここ数か月」

「日ごろ」→「数日」「ここ数日」

「日ごろ」は、「日々」というニュアンスで「普段」と訳すこともあります。

あらはなり 形容動詞(ナリ活用)

「あらはに」は、「あらはなり」という形容動詞の「連用形」です。

「まる見えだ」「明らかだ」「露骨だ」などと訳します。

人間関係ですと、オブラートに包まずになんでもズケズケ言うのは、礼儀がないように感じることがありますよね。

そのことから、「あらはなり」を、「無遠慮だ」などと訳すこともあります。

こほちちらす 動詞(こほつ+散らす)

「こほち」は、「毀つ(こほつ)」の「連用形」です。

「こほつ」は、「壊す」「崩す」という意味で、自動詞では「こほる」と言います。

「散らす」は、この例文のように補助動詞的に使用すると、「乱雑に~する」という意味になります。

この場面では、住み慣れた家を「こほちちらす」のですが、家そのものを「壊す」というのは考えにくいので、「几帳・御簾・障子」などといった「建具」「家具」などを「乱雑に取り外す」場面として解釈しましょう。