〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。
しばしかなでて後、抜かんとするに、おほかた抜かれず。酒宴ことさめて、いかがはせんと惑ひけり。とかくすれば、首のまはり欠けて、血垂り、ただ腫れに腫れみちて、息もつまりければ、打ち割らんとすれど、たやすく割れず、響きて堪へがたかりければ、かなはで、すべきやうなくて、三つ足なる角の上に帷子をうちかけて、手を引き杖をつかせて、京なる医師のがり率て行きける道すがら、人のあやしみ見ること限りなし。
徒然草
現代語訳
しばらく舞った後、抜こうとするが、まったく抜けない。酒宴も興がさめて、どうしようと困った。あれこれすると、首のまわりが傷ついて、血が垂れ、ただひどく腫れあがって、息もつまったので、打ち割ろうとするけれど、簡単には割れず、(音が)響いて我慢できなかったので、(割ることも)かなわず、どうしようもなくて、(鼎の)三つ足である角の上に帷子をうちかけて、手を引いて杖をつかせて、京にいる医師のもとに連れて行った道中(ずっと)、人が不思議に思って見ることはこの上ない【はなはだしい】。
前後のお話はこちら。
ポイント
なり 助動詞
「なる」は、「存在」の助動詞「なり」の連体形です。
基本的には「断定」の助動詞の「なり」ですが、「~だ・である」という訳ではなく、「~にいる」と訳すものについては、「存在」の意味と考えます。
「AなるB」という構造において、「A=B」なのではなく、「Aの内部にBが存在する」というケースです。
がり 形式名詞(接尾語)
「がり」は、形式名詞「許(がり)」です。
「(人の)がり」という使い方が多く、「(人の)もとに・もとへ」と訳します。
「の」が入らず、「(人)がり」と直接つくこともあります。その場合は接尾語の扱いです。
「がり」の「が」は、「住処(すみか)」「在処(ありか)」などの「か」と同じ意味であり、「がり」「り」は、「いづれ」などの「れ」と似たように「方向」を示すものと考えられています。
以上のように「がり」には「~へ・~に」といった「方向・目的地」を指す意味が内包されているので、「がりへ」「がりに」といった用い方はしません。
率る 動詞(ワ行上一段活用)
「率」は、動詞「率る(ゐる)」の連用形です。「連れていく」という意味です。
「率る」は「ワ行上一段活用」になります。
「上一段活用」は数が少ないので、主なものを覚えてしまいましょう。
けり 助動詞
「ける」は、「過去」の助動詞「けり」の連体形です。
すがら 接尾語
「すがら」は、接尾語です。
主に(1)(2)の意味になります。
(1)~の始めから終わりまで・~の間中ずっと
(2)~の途中・~のついで
「夜もすがら」であれば「一晩中」などと訳します。
「道すがら」であれば、「道の途中」「道中ずっと」などと訳します。
シンプルに「道中」としておけば、どちらの意味でも取れるので、それで問題ありません。ただし選択問題であれば、「道中では最初から最後まで」などとくわしく書き加えている可能性もあります。
あやしむ 動詞(ラ行四段活用)
「あやしみ」は、動詞「あやしむ」の連用形です。
形容詞「あやし」の動詞形です。
「不思議に思う」「不審がる」などと訳しましょう。
限りなし 形容詞(ク活用)
「限りなし」は、形容詞「限りなし」の終止形です。
「際限」が「無い」ということなので、根本的な意味は「限りない・果てがない」ということです。
今回の使い方は「程度がはなはだしくて、これより上がない」という文脈なので、「この上ない」「はなはだしい」などと訳します。