ありのままに言はんはをこがましとにや、(徒然草)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

人のものを問ひたるに、知らずしもあらじ、ありのままに言はんはをこがましとにや、心惑はすやうにかえりごとしたる、よからぬことなり。知りたることも、なほさだかにと思ひて問ふらん、また、まことに知らぬ人もなどかなからん。うららかに言ひ聞かせたらんは、おとなしく聞こえなまし。

徒然草

現代語訳

人がものを問うたときに、まさか知らないこともあるまい、ありのままに言うとしたらそれは【言うようなことは】ばかばかしい【みっともない】と思うのだろうか、(相手の)心を迷わせるように返事をしているのは、よくないことである。知っていることも、よりいっそう確かに(したい)と思って問うているのだろう、また、本当に知らない人もどうしていないだろうか、いや、いるはずだ。隠すことなくさっぱりと言い聞かせたならば、きっと分別がある(返事だ)と聞こえるだろう。

ポイント

ん 助動詞

「ん」は、助動詞「ん(む)」の連体形です。

文中連体形の「ん(む)」は、仮定・婉曲の意味になります。

ひとまずの方法論としては、

① 直後の体言があれば「婉曲」
② 直後の体言がなければ「仮定」

としておくといいのですが、どちらで訳しても問題ないケースも非常に多いです。

ここでも、

① 【婉曲】 言うようなことは
② 【仮定】 言うとしたらそのことは

どちらでもおかしくはありません。

「婉曲」と「仮定」は、どちらで訳しても問題ないケースも多く、その区別に神経質になる必要がないことを知っておくと、選択肢問題に対応しやすくなります。

をこがまし 形容詞(シク活用)

「をこがまし」は、形容詞「をこがまし」の終止形です。

「痴(をこ)」に接尾語の「がまし」がついてできた語です。

「をかし」と同根のことばとも言われますが、「をかし」のほうは、「招く(をく)」がもととも言われており、そのぶん「興味深い」という意味合いが強く、総じてプラスの意味になります。

一方で、「をこがまし」は、「痴」の意味がそのまま出ていて、「ばからしい」「みっともない」と訳すことが多く、基本的にマイナスの意味になります。

にや 連語

「にや」は連語です。

文末や、挿入句の末尾にある場合の「にや」は、断定の助動詞「なり」の連用形「に」+係助詞「や」と考えます。

「にや」の後ろには、「あらむ」「ありけむ」など、何らかの表現が省略されています。

係り結びにおける「結びの省略」といわれるものです。

なり 助動詞

「とにや」の「に」は、断定の助動詞「なり」の連用形です。

傍線部の文脈的には、「と思ふにや」といったように、何らかの動詞(連体形)が省略されていると考えられます。ここでは、「思ふ」があるとみなして、現代語訳につけくわえました。

や 係助詞

「や」は、係助詞です。

本来であれば「結び」が連体形になりますが、ここでは省略されています。

「あらむ」「ありけむ」といった、「あり+推量の助動詞」は、すすんで省略される傾向にあります。

すべての省略を勝手に補うと、

知らずしもあらじ、
ありのままに言はんはおこがましと思ふにやあらむ

というような表現になります。

「まさか知らないことはないだろう、そのまま言うようなことはばかばかしい」と思うのであろうか、

という「長い挿入句」になっています。