勝つべきいくさに負くることよもあらじ。(平家物語)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

あっぱれ大将軍や。この人一人討ちたてまつ(り)たりとも、負くべきいくさに勝つべきやうもなし。また討ちたてまつらずとも、勝つべきいくさに負くることもよもあらじ。小次郎が薄手負うたるをだに、直実は心苦しうこそ思ふに、この殿の父、討たれぬと聞いて、いかばかりか嘆きたまはんずらん。あはれ助けたてまつらばや。

平家物語

現代語訳

熊谷は、「ああ立派な大将軍だ。この人一人をお討ち申し上げたとしても、負けるはずの戦に勝つはずもない。また お討ち申し上げないとしても、勝つはずの戦に負けることはまさかあるまい。(息子の)小次郎が軽い傷を負ったことさえ、直実はつらく思うのに、この殿(敦盛)の父は、(敦盛が)討たれたと聞いて、どれほどれほどお嘆きになるだろうか。ああ お助け申し上げたい。

ポイント

べし 助動詞

「べき」は、助動詞「べし」の連体形です。ここでは「当然」の意味になります。

「べし」は、ニュアンスとしては「べし」のまま解読できるものも多いのですが、現代語訳の問題になっているときは、「はずだ」「だろう」「しよう」など、何らかの置換をしておいたほうがいいです。

根本的には「当然」なので、「当然」で訳せる場合は「はずだ」「はずの」としておきましょう。

よも 副詞

「よも」は「副詞」です。

助動詞「じ」と呼応して、「まさか~まい」と訳します。

じ 助動詞

「じ」は、「打消意志」「打消推量」の意味をもつ助動詞です。ここでは「終止形」です。

一人称に用いていれば「打消意志」であり、そうでなければ「打消推量」と考えましょう。どちらの場合でも「~まい」と訳せばOKです。

「打消意志」は、「~(し)ないつもりだ」と訳してもよいです。

「打消推量」は、「~ないだろう」と訳してもよいです。

「まい」ということばは、そのどちらの意味も兼ねますから、字数も短いですし、記述で訳す時は便利です。

ただ、選択肢の問題ですと、助動詞「じ」の訳として、「~するつもりはない」とか、「~であろうはずがない」とか、ちょっと長めに崩してくることもありますね。