犬のことことしくとがむれば、(徒然草)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

荒れたる宿の人目なきに、女のはばかる事あるころにて、つれづれとこもりゐたるを、或人、とぶらひ給はんとて、夕月夜のおぼつかなきほどに、忍びて尋ねおはしたるに、犬のことことしくとがむれば、下衆女の出でて、「いづくよりぞ」と言ふに、やがて案内せさせて入り給ひぬ。心ぼそげなる有様、いかで過ぐすらんと、いと心ぐるし。あやしき板敷にしばし立ち給へるを、もてしづめたるけはひの若やかなるして「こなた」と言ふ人あれば、たてあけ所狭げなる遣戸よりぞ入り給ひぬる。

徒然草

現代語訳

荒れている宿で人目もないところに、女が世をははがる事があるころで【物忌の時期で】、所在ないままにこもっていたが、ある人が、お訪ねになろうとして、夕月夜のぼんやりしている頃合いに、人目を避けて尋ねていらっしゃったところ、犬が仰々しく吠えたてるので、召し使いの女が出てきて、「どこから(いらしたのか)」と言うと、すぐに取り次ぎをさせてお入りになった。心細い有様で、どのように過ごしているのだろうか、たいそうやりきれない。みすぼらしい板敷にしばらくお立ちになっているのを、落ち着いた様子の若々しい声で「こちらへ(どうぞ)」と言う人がいるので、閉めるのも開けるのも窮屈そうな遣戸からお入りになった。

ポイント

ことことし 形容詞(シク活用)

「ことことしく」は、形容詞「事事し」の連用形です。

「ことごとし」と表記されることも多いです。

訳は「おおげさだ」「仰々しい」のどちらかで大丈夫です。

とがむ 動詞(マ行下二段活用)

「とがむれ」は、動詞「とがむ」の已然形です。

「とがむ」は、「非難する」「責める」という意味の動詞ですが、ここでは主語が「犬」であり、前後関係から吠えていることが推察できますので、「吠えたてる」くらいに訳しておくのがいいと思います。

ば 接続助詞

「ば」は、接続助詞です。

未然形 + ば」は「順接仮定条件」として訳します。

已然形 + ば」は「順接確定条件」として訳します。

「確定条件」は、そのなかでもさらに3つに分類できます。

(a)原因・理由  ~ので
(b)偶然条件  ~(する)と・~(した)ところ
(c)恒常条件  ~(する)といつも

ここでは、「確定条件」の(a)または(b)で訳すのがいいですね。