かたみに聞えたまひて、泣きみ笑ひみしたまふ。(落窪物語)

門だに引き出でてければ、をのこども多くて、二条殿におはしぬ。人もなければ、いと心安しとて、おろしたてまつりたまひて、臥したまひぬ。日ごろのことども、かたみに聞えたまひて、泣きみ笑ひみしたまふ

落窪物語

現代語訳

門さえ出てしまったので、(護衛の)男たちが多くしたがって、二条の邸にいらっしゃった。(他に)人もいないので、たいそう気楽だと思って、(姫君を)お下ろし申し上げてなさって、横におなりになった。日ごろ【ふだん】のことなどを、互いに申し上げなさって、泣いたり笑ったりしなさる

幽閉されていた落窪の姫君を、少将が奪還したあとの場面ですね。

ポイント

かたみに 副詞

「かたみに」は、副詞です。「たがいに」と訳します。

聞こゆ 敬語動詞(ヤ行下二段活用)

「聞こえ」は、敬語動詞「聞こゆ」の連用形です。

ここでは「謙譲語(本動詞)」であり、「申し上げる」と訳します。

たまふ 敬語動詞(ハ行四段活用)

「たまひ」は、敬語動詞「たまふ」の連用形です。四段活用の「たまふ」は尊敬語です。

ここでは補助動詞なので、「お~になる」「~なさる」「~ていらっしゃる」などと訳します。

聞こえたまひて」は、「謙譲語」「尊敬語」ですね。

このように、謙譲表現と尊敬表現をセットで用いる場合には、「謙譲」⇒「尊敬」の順番になります。

日記や物語では、「聞こえたまふ」という表現は非常によく出てきますね。

み 接尾語

「泣きみ笑ひみ」の「み」は接尾語です。

このように、並列関係についている「み」は、「泣いたり笑ったり」と訳します。

少し古めかしい言い方ですと、「泣きつ笑いつ」などと訳す場合もあります。