うちほほ笑ませ給ひて、(枕草子)

〈問〉傍線部を現代語訳せよ。

上の、「このわたりに見えし色紙にこそ、いとよく似たれ」と、うちほほ笑ませ給ひて、いま一つ、御厨子のもとなりけるを取りて、指し給はせたれば、「いで、あな心う。これ仰せられよ。あな頭いたや。いかでとく聞きはべらむ」と、ただ責めに責め申し、怨み聞こえて笑ひ給ふに、

枕草子

現代語訳

上【一条天皇】が、「このあたりに見えた色紙に、とてもよく似ている」と、ふいに【ほんのちょっと】ほほ笑みなさって、もう一つ、御厨子のもとにあった色紙を手に取って、指し出しなさったので、(籐三位は)「おやまあ、ああ情けない【つらい】。これ(のわけを)おっしゃってよ。ああ頭が痛い。なんとかしてすぐに聞きましょう」と、ただ(一条天皇を)ひたすら責め申し上げ、怨み申し上げてお笑いになると、

前後のお話はこちらをどうぞ。

ポイント

うち 接頭語

「うちほほ笑ませ給ひて」の「うち」は、様々な語につく接頭語です。

訳すのであれば、「ちょっと・少し」「ふと・はっと」「すっかり・ぱったり」など、様々な意味になります。

ここは、記述問題であれば、「うち」を訳出せずに、「ほほ笑みなさって」と訳してもかまいません。

訳すのであれば、文脈上、「ほんのちょっとほほ笑みなさって」「ふいにほほ笑みなさって」などになりますね。

選択肢問題であれば、「にっこりとほほ笑みなさって」なども考えられますね。

場面としては、「自分たちのいたずらであったことをネタバレするところ」だから、笑いをこらえられずにふきだしちゃったと考えて、「勢いよくほほ笑みなさって」などと訳す可能性もあるよね。

なくはないですね。

ただ、「ほほ笑む」が、「微笑する」という意味なので、「勢いよく」だとちょっと矛盾するかもしれません。

せ給ふ 連語(最高敬語)

尊敬の助動詞「す」の連用形尊敬語「たまふ」です。

天皇や中宮といった「超上位層」に用いる「最高敬語(二重尊敬)」ですね。

「~せたまふ」「~させたまふ」というセットは、まず「最高敬語」だと考えてみましょう。

時々、「誰かに何かをさせなさる」という意味で、「す・さす」を「使役」で解釈するものもあります。ただ、その場合は「誰か」もしくは「何か」がはっきり書かれていることが多いので、見分けるのはそれほど困難ではありません。

ここでは、「上」ご自身が「お笑いになる」のですから、「使役」ではありません。

「尊敬の助動詞」+「尊敬語」のパターン、すなわち「最高敬語」だと考えます。