いで、あな心う。(枕草子)

〈問〉傍線部を現代語訳せよ。

上の、「このわたりに見えし色紙にこそ、いとよく似たれ」と、うちほほ笑ませ給ひて、いま一つ、御厨子のもとなりけるを取りて、指し給はせたれば、「いで、あな心う。これ仰せられよ。あな頭いたや。いかでとく聞きはべらむ」と、ただ責めに責め申し、怨み聞こえて笑ひ給ふに、

枕草子

現代語訳

上【一条天皇】が、「このあたりに見えた色紙に、とてもよく似ている」と、にっこりとお笑いになって、もう一つ、御厨子のもとにあった色紙を手に取って、指し出しなさったので、(籐三位は)「おやまあ、ああ情けない【つらい】。これ(のわけを)おっしゃってよ。ああ頭が痛い。なんとかしてすぐに聞きましょう」と、ただ(一条天皇を)ひたすら責め申し上げ、怨み申し上げてお笑いになると、

前後のお話はこちらをどうぞ。

ポイント

いで 感動詞

「いで」は、感動詞です。

自分が行動を起こす際にも、相手を誘ったり促したりする際にも用います。どちらの場合も、基本的には「さあ」と訳します。

単純に感動したり驚いたりしたときに用いているのであれば、「さあ」は不似合なので、「おやまあ」とか「いやもう」などと訳しておきましょう。

この場面では、文脈的に「驚き」であるので、「さあ」ではなく、「おやまあ」「おや」「まあ」などとしておくのがよいですね。

あな 感動詞

「あな」は、感動詞です。「感情が高まって、つい発してしまう声」が「あな」です。

訳は「ああ」としておきましょう。

なお、中世では「あな」よりも「あら」が多くなっていきます。

形容詞や形容動詞の直前に「あな」がつくと、その形容詞・形容動詞は語幹で終わることがあります。さらに、その形容詞・形容動詞の語幹に「や」が付くことが多くなります

たとえば、「あな」+「うたてし」+「や」であれば、「あなうたてや」となります。

訳は「ああ不快だ」などと、「ああ」をつけておけばよいですね。

さて、ここでの「心う」は、もともと形容詞「心うし」です。

心憂し 形容詞(ク活用)

「心う」は、形容詞「心憂し」語幹です。

「心うし」「つらい」「情けない」という意味ですから、「あな心う」であれば、「ああつらい」「ああ情けない」などと訳しましょう。