あくがる【憧る】 動詞(ラ行下二段活用)

ふらふら〜と離れる

意味

(1)離れさまよう・さまよい歩く

(2)落ち着かない・そわそわする

(3)(魂が)体から抜け出す

(4)(心を)奪われる・ぼんやりする・うわの空になる

(5)疎遠になる

ポイント

「あく」は「本来いるべき場所」であり、そこからる」ということになります。

現代語の「憧れる」みたいに、「理想とする対象に心ひかれる」という意味にはならないんだな。

古語の場合は、「本来あるべき場所から離れてしまう」という意味が強いですね。

「いるべき場所」から身体ごと離れるのであれば、「離れさまよう」「さまよい出る」などと訳します。

あるいは、「魂」が「(いるべき場所である)身体」から抜け出してしまうという状況でもよく使用されます。

したがって、現代語の「憧れる」のもとになっているとは言えますが、現代語どおりの意味は古語にはないですね。

何かに心引かれるということよりも、「居場所と身体」とか、「魂と身体」とかが、「離れる」ということに意味の重心があるんだね。

そのとおりです。

古語の「あくがる」は、る」に力点がある動詞ですね。

あとは、「人物A」と「人物B」が「離れる」という場合もあります。

その場合、「疎遠になる」などと訳します。

例文

物思ふ人の魂は、げに、あくがるる物になむありける。(源氏物語)

(訳)もの思いにふける人の魂は、実に、体から離れてさまようものであったのだなあ。

いさよふ月に、ゆくりなくあくがれむことを、女は思ひやすらひ、(源氏物語)

(訳)迷いためらう月のように、不意に(この家を)離れさまようようなことを、女はためらって、

作りわたせる野辺の色を見るに、はた、春の山も忘られて、涼しうおもしろく、心もあくがるるやうなり。(源氏物語)

(訳)(秋の草で)お作りになった野辺の色彩を見ると、一方では、春の山もつい忘れられて、さわやかで趣きがあり、心も浮き立つようである。

うつし心なきをりをり多くものしたまひて、御仲もあくがれて、ほど経にけれど、(源氏物語)

(訳)(物の怪により)正気を失う時が多くていらっしゃって、ご夫婦の仲も疎遠になって、月日が経ったけれど、