ものす【物す】 動詞(サ行変格活用)

do!

意味

(1)ある・いる

(2)行く・来る

(3)生まれる・死ぬ

(4)「何かをする」という意味での文脈訳(書く・言う・聞くなど)

ポイント

「物」に「す」がついてできた動詞なので、基本的には「何かをする」という意味です。ただし、文脈に応じて、「いる」とか「行く」などと訳す必要があります。

英語でも、「do」「does」「did」が様々な行為の代用をすることがありますね。「ものす」もそれらと同じように、実質的には何か具体性のある行為を意味しています。

ああ~。

よく映画を観ていると、「You did it !(やったな!)」なんて言う時があるけど、状況に応じて、「宿題を終わらせた」とか「優勝した」とか「つまみ食いした」とか、いろんな意味になるもんな。

「ものす」もそうです。表現上は「(何かを)する」ということなのですが、訳をするときには注意が必要です。

「食べる」「書く」「言う」「聞く」など、様々な行為が当てはまるのですが、多いのは「ある」「いる」「行く」「来る」です。

でもまあ、それなら「言ふ」とか「食ふ」とかそのまま言ってほしいけどな。

『枕草子』などは、はっきりそのまま言うことが多いので、「ものす」はあまり出てきません。

作者の文体のくせもあるでしょうけれども、やはり物語のほうが出てきやすいですね。

『源氏物語』などは、婉曲的にぼかして言うっことが多いので、「ものす」はけっこう出てきます。

なお、『源氏物語』でいうと、「ものしたまふ」という表現で、「あり」の尊敬表現として使用することが多いです。「おありになる」「いらしゃる」などと訳しますね。

敬語のランクとしては、その上に「おはす」があり、さらに上に「おはします」があります。

例文

日ごろものしつる人、今日ぞ帰りぬ。(蜻蛉日記)

(訳)ここ数日(ここに)た人が、今日帰ってしまった。

心地悪しみして、物もものし給ばで、ひそまりぬ。(土佐日記)

(訳)気分が悪くなって、ものもお食べにならないで、眠ってしまった。

かどかどしきところものし給ふ御方にて、(源氏物語)

(訳)とげとげしいところがおありになるお方で、

いで、あな幼や。いふかひなうものしたまふかな。(源氏物語)

(訳)あら、まあ幼稚なことよ。たわいなくいらっしゃることよ。