き(過去)+む(推量)
意味
(1)【過去推量】 ~たのだろう・~ただろう
(2)【過去の原因推量】 (どうして)~たのだろう・~からだったのだろう
(3)【過去の伝聞・婉曲】 ~たとかいう・~たような
ポイント
過去の助動詞「き」の古い未然形「け」に、推量の助動詞「む」がついて一語化したものと考えられています。
過去のことを推量する場合は「けむ」、現在のことを推量する場合は「らむ」、未来のことを推量する場合は「む」を用います。
「けむ(けん)」は、「む(ん)」の過去版と考えればいいんだな。
そうですね。
ただ、「む」における「意志」「適当」「勧誘」「仮定」などの意味は、たいがい「未来」のことに対して用いるので、「けむ」にはなかなか当てはまりません。
そのたけ、「けむ」は、過去における「推量」「婉曲」「伝聞」などの意味にほぼ限定されます。
「む」には、「伝聞」の意味はなかったよね?
現在や未来に対する「推量」というのは、基本的に自分で考えていることですけれど、過去に対する「推量」というのは、状況的に「どこかからか伝わった噂話」であることがありますね。
そういうケースは「過去の伝聞」とすることがあります。
なお、③の「過去の伝聞・婉曲」は、多くの場合、直後に体言(名詞)があって、「~たとかいう○○」「~たような○○」というように、体言を修飾する訳し方をします。体言が表記されていない場合もありますが、その場合は補って訳します。
例文
かかる目見むとは思はざりけむ。(枕草子)
(訳)このような目にあうだろうとは思わなかっただろう。
唐土の人は、これをいみじと思へばこそ、記しとどめて世にも伝へけめ、(徒然草)
(訳)唐土の人は、こういうことをすばらしいと思うからこそ、記録して、世に伝えたのだろうが、
京や住み憂かりけむ、東の方にゆきて、住み所求むとて、(伊勢物語)
(訳)都は住みづらかったのだろうか、東国のほうに行って、住む場所を探そうとして、
行平の中納言の、「関吹き越ゆる」と言ひけむ浦波、夜々はげにいと近く聞こえて、(源氏物語)
(訳)行平の中納言が、「関吹き越ゆる」と詠んだとかいう浦波が、毎晩実にたいへん近くに聞こえて、